もし、本件懲戒事例で、弁護人が積極的に「単独犯」であるとの虚偽事実を展開したのであれば、(依頼元や)依頼者の意向がどうあれ、消極的真実義務に反したという誹りは免れまい。とはいえ、依頼者の意向が単独犯を主張するところにあったなら、巻き込まれて身の処し方を間違ったという程度のことであり、業務停止2月は重きにすぎること甚だしい、という感がある(懲戒相場には通じていないが)。
被処分者が「単独犯として弁護することは男の不利益にならないと思った」と話したと報道されていることからすると、綱紀では依頼者に不利益が与えたことが問題視されたようであるから、結論的にも依頼者に、不本意な不利益をもたらしたと判定され重い処分に至った、と思われる。

そこで、依頼者が単独犯を主張しているが、客観的に見て依頼者に不利益であり、しかし依頼者はそれを理解していなかった(もしくは依頼元との関係で不承不承に受け入れている)と想定してみる。
この場合、最善を尽くすべき弁護人としては、依頼者に、共犯関係を主張するよう説明、説得をすべきであろう。この場合に、依頼元に阿ることは許されない。仮に依頼元が弁護士費用を出しているとしても、である。なにがあろうと依頼者への最善を尽くさなければならない。
従って、もし、説明、説得を怠ったとすると、「真実を尊重」とは別の次元で、非違行為があったと言うことになろう。逆に、説明、説得を尽くし、それでも依頼者が単独犯を主張するなら、その不利益は依頼者が自ら選択したものであり、弁護人には咎はない。弁護人がそのときの判断として、敢えて共犯を主張することに利益があるとも思われないと判断したのであれば、過失はともかく、業務停止に至るほどの非違行為とは考えづらい。

なお、依頼者が共犯関係を供述したがっているのに、依頼元に阿り、これを阻止したような場合は、救いがたいと言える。真実を黙秘させただけなら、消極的真実義務違反ではないけれども、依頼者の意思に反し、また、最善を尽くす義務にも反しているからである。
依頼元との守秘義務や人間関係が問題になり、板挟みになるなら、潔く、事件から手を引かなければならなかった。「かぶろうとしているのでその意向に沿って弁護」を期待されたとしても、依頼元に対しては予め、真逆の結論に至る場合があること、その場合は依頼者の利益のために行動することになることを、確実に伝え、記録化しておくことが必須である。特にお金の遣り取りを伴う場合は。

以上からすると、本件懲戒は、
1.積極的に嘘を主張してしまったか、
2.依頼者に対する十分な説明等を怠るなどして、最善を尽くさなかったか、
3.下手をすると、依頼者より依頼元の意向を優先させてしまったか、
あたりで、重い処分になっていることからすれば、3の場合であろうか、と思われるところである。
もしそうだとすると、報道に戻って、「真実を尊重し、信義に従う」ことに背いたという処分理由は合点がいかないところである。関心を持って見守りたい。

(弁護士 金岡)