毎日新聞本年5月6日の「風知草」において取調べ立会いについて言及がある。

基本的に取調べの改革を必要とする論調なのだが、「専門家によれば、取り調べ段階での弁護士立ち会いは、それを認めれば金持ちほど有利になるところが問題だという」という指摘をした上で、「日本らしい公平性の追求と人権保障の国際標準の調和を探る必要があろう」という、あらぬ方向へ舵を切り、「録音録画制度をせめて全ての否認事件へ広げたい」との結論に至っている。

自称有識者の論説に一々噛みついていては体が持たないが、それにしてもまた奇妙な論である。

「取り調べ段階での弁護士立ち会いは、それを認めれば金持ちほど有利になるところが問題」・・とあるが、被疑者国選が全件で実施されている現状、国選が対応できないのは逮捕直後から勾留後初回接見までの間に限られるし、その期間は当番弁護士制度による無償対応がある(そして経験的に、私選が余りに無能で国選に切り替えられている事件も数多あるから、無償対応を馬鹿にしたものではない)。
なるほど「逮捕されたらすぐに駆けつける私選弁護士」を抱えている場合が理屈の上で最も手厚いから、金持ち有利と論じることは不可能ではないが、資力があることと「逮捕されたらすぐに駆けつける私選弁護士」を抱えていることとは全く同義ではないから、かなり無理がある論建てである。
強いて言えば、論者は、弁護人の立会いを任意的なものとする制度設計を念頭に、立ち会う都度、お手当の出る私選弁護人と、立ち会いを避けたがる国選弁護人の対立の構図下、前記のように述べているのかも知れない。そこまで考えてのことなら金持ち有利も理解できなくはないが、・・立ち会う国選弁護人の費用体系はおそらく時間・回数に連動するだろうから、当たってはいまい。
寡聞にして初めて聞いた「金持ち有利」からの批判論は、どうにも当たっていないようである。提唱した「専門家」とは、一体誰なのだろうか。

もう一つ、「日本らしい公平性の追求と人権保障の国際標準の調和」というのもまた失笑ものである。国際的に見て基本的人権に属する権利が、日本では贅沢品だから、一律、権利保障しないでおきましょう、等という議論に説得力の欠片もない。

いつぞやのDVの記事(本欄2018年6月22日)もそうだが、(正確性を少し犠牲にしてでもわかりやすくと言う話とは次元の違う)誤りを堂々と載せられると閉口する。

(弁護士 金岡)