袴田事件に関連して、検事総長のいわゆる犯人視発言に対し名誉毀損だとして民事訴訟が提起されたことが話題になっている。
検事総長の、確定無罪判決が承服しがたい内容を含み控訴すべき趣旨の発言を、本来であれば有罪認定されるべき趣旨に読むのであれば(控訴すべきと言うことは、無罪の結論に変更を求めるということだから、そう読まざるを得ないだろう)、無罪が確定した袴田氏を依然として犯人視していることになる。民事訴訟は当然だろう。
さて、私が担当している、被疑者補償不支給裁定を巡る訴訟でも、似たような問題が発生しているので、ここで報告しておきたい。
被疑者補償不支給裁定に関しては、以下の記事を参照のこと。
https://www.kanaoka-law.com/archives/1633
訴訟において、国側は、無罪が確定した詐欺事件(虚偽債権を担保として融資を騙し取ったとされた事件、被告人の関与はなく犯人性が否定された)に続く電磁的公正証書原本不実記録等事件(当該虚偽債権に譲渡担保を設定した事件)について、被疑者補償規程4条2項「その者が罪を犯さなかつたと認めるに足りる事由があるとき」該当性を争っている。
その論旨は、詐欺事件において、確定無罪判決は、相当の疑いが残ることを指摘したが犯罪の証明がないとして無罪にしたに過ぎないから、原告に犯人性の嫌疑が残ることは明らかであり、従って続く電磁的公正証書原本不実記録等事件についても嫌疑が残ることは当然だというものである。
しかし、詐欺事件について犯人性の証明がないとして無罪になったからには、刑事事件手続、特に敗訴当事者である検察庁(刑事で無罪になった事件を、被害者側が民事事件で提訴することが禁じられているわけではないが、それは手続の種別や証拠構造、証明水準が異なるからであり、その論理は敗訴当事者である検察庁には妥当しない)は、原告を「犯人でない」と扱うことになるのであり「犯人である証明がないだけの人」と貶めることは許されないはずである。
無罪が確定しても嫌疑が残るという主張は、全く理屈になっていないと考える。
根っこは、袴田事件の検事総長発言と同じであり、「無罪が確定しても犯人の疑いは残り続ける」という主張を検察庁に許すのか、裁判所の判断が問われている。
(弁護士 金岡)