最近、「SNSで『小物感満載』『さもしい』など中傷は『苛烈』と罰金刑」との小見出しで報じられた名古屋地判2025年9月22日の報道(この小見出しは讀賣新聞オンラインのもの)を見て、侮辱罪が行き過ぎているのか、自分の感覚が間違っているのか、考える機会となっている。

折から、侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会第1回会議(2025年9月12日)の配付資料5に侮辱罪の事例集が含まれており、それを通覧して、侮辱罪が行き過ぎているなぁと思ったばかりだというのもある。
(配布資料5 侮辱罪の事例集)
https://www.moj.go.jp/content/001446563.pdf

事例集の各事例は、まあ確かに芳しからぬ表現ではあるが、果たして市民的自由に対する過介入ではないか、という視点でみれば、過介入と思われるものも散見される。
例えば事例2、「駐車場において、被害者に対し、『馬鹿』と言った。」で科料になっている。状況は分からないが、何かしらの言い争いの末に「馬鹿」という程度のことであれば、犯罪として取り締まるようなことかと思う。
同じ観点で事例71。これは少々長いが、「誹謗中傷してる人全員覚悟しててね!警察舐めんなよ!逮捕者近々でます。」などと投稿していた被害者について、「年収3000万だとか警察舐めんなとか、今どき田舎ヤ○ザでも使わない厨二病拗らせた稚拙な誤字脱字だらけのポストでイキる人を見ると、知性や品格って大事だなと思う。赤羽の安スナックでくだ巻いてる歯のないジジイみたいw」と掲載した、というもので、罰金10万円である。舞台がSNSで公然性が強いことを踏まえても、単なる言い争いではないかと思うし、「厨二病拗らせた稚拙な」とか、「知性や品格(がない)」等とやっつけることは、一々刑事罰に付されるような話だろうか。
関心のある向きは前記資料に当たられたいが、口論の末に「馬鹿」というくらいのことは市民的自由の範疇で、無人島で暮らすのでもない限り、主観的に自尊心を害する程度のことを逐一、犯罪扱いすることには全く反対である。

冒頭の名古屋地判は、報道によれば、SNSで、トラブルのあった相手方に対し、「小物感満載、さもしい人ですね」「子持ちの親が反社会的な行為をして、更に往生際の悪い姿を大勢の方々にさらしてしまいましたね」などの文言を投稿したことが侮辱罪に問われたとのことである。
判決文に当たっていないので、この報道を前提にせざるを得ないが、「小物感満載、さもしい」「往生際の悪い」程度の言い回しは、私の中では許容範囲であるし、「反社会的な行為」は、それを基礎付ける事情が相応にあるなら、やはり許容範囲ではないか。
報道を見るだに、かなり違和感のある結論である。

この関係で、先日の刑法学会の資料にも、侮辱罪について討議されたものが含まれており、確かドイツだったかと思うが、権力に対する闘争上の言辞であれば侮辱罪の成立範囲は狭まるような議論が紹介されていた。
個別事案や、あるいは判例に対し、「まともでない」「正気を疑う」「人間性の欠片もない」等と“手厳しく”批判することは果たして犯罪なのだろうか。
だとすれば窒息しそうな社会である。

(弁護士 金岡)