とある弁護士から考えを聞かれたので、簡単に表明しておきたい。
なお、以下の一般論は、特に刑事事件、行政事件には特に良く妥当する。

結論から言うと、公的な立場で裁判に関与する人物や、それに準じた継続的な立場で裁判に関与する人物は、顕名表示する(特に批判的に取り上げる場合は、顕名表示しない理由がない。)。
前者の代表格は、裁判官や検察官、それから捜査官。
後者の代表格は「いつも捜査側の依頼を受けるような特定の民間医師」であろうか。

第一に、継続的に裁判に関与する人物は、裁判の公開原則の趣旨に照らし、継続的に監視されるべき存在である。裁判の適正を期して裁判を公開する以上は、継続的に関わる人物は継続的に監視されて初めて適正を期することが出来る。
別の言い方をすれば、この種の人物は、裁判機関の一部と説明しても良い。裁判官や検察官はいうまでもなく、捜査官も、広義の裁判機関の一部だろう(弁護人機関説に立てば弁護人もまた監視対象となろうが、私は弁護人機関説には反対である。そして、継続的関与の実質から見ると、あらゆる弁護士が継続的に関わるとは言えない上に、契約が絡むので、結論否定的に捉えている。)。

第二に、上記べき論は形式論かも知れないが、実質論としても、この種の人物は継続的に監視されなければならない。偏向した訴訟指揮等を繰り返す裁判官は、場合によっては忌避事由に至ることも考えれば、継続的に監視されなければならないことは見易い。
不適切な捜査を行った捜査官、偽証が認定された捜査官等も然りである。刑訴法は属人的要素に基づく弾劾を許している。過去の裁判との関わりにおける非違行為を隠して証言することを容認する筋合いはない。
「いつも捜査側の依頼を受けるような特定の民間医師」は、例えば「御用医者」と揶揄されるように、捜査機関に阿った専門家意見しか述べない、ということがある。的確な弾劾のためには、過去の意見を確認するとか、過去の裁判例における採否を確認し、防御の用に供すべき必要性があると言え、顕名表示は必然である。進んで言えば、(判決書すらまともに公開されない我が国において、まだまだ尖った意見に過ぎないのかも知れないが、)この種の人物の証言なり鑑定なりは、データベース化されるべきだろう。捜査機関に阿り、場当たり的な鑑定を繰り返すような「御用医者」を炙り出すには格好の素材となろう。

以上の通り、公開原則の趣旨(広義の裁判機関に属すること)、及び、継続的監視の必要性に照らし、前記の如く顕名基準を採用している。私が過日、弁護士会の量刑データベースを設計したときも、概ね同じ匿名処理基準を採用している。

なお、一つ難しいのは、「英断を褒める」ことである。
横並びを良しとする、出る杭は打たれるような社会では、英断を顕名で称えることが逆効果になると言うことがある。
裁量的ではあるが、そこは敢えて匿名にして、ということがある。

(弁護士 金岡)