ひょんなことから目にした刑事判決は、概要、次のようなものである。

共犯ABの詐欺事件であり、起訴されている量はAの方が多く、また、Bは狡猾であると批判されながらも主導的なのはAであったと認定されている。
かたや、第1審段階では、Aは共犯部分で一定割合を賠償したが、Bは一切賠償していなかった。

さて、以上のような状況で、Aは実刑判決を受けた。
その約一月後、Bも実刑判決を受けた。
Aは控訴せず確定したが、Bは控訴し、一転して全部賠償した。
その結果、高裁ではBは破棄、執行猶予付きの判決を受けた。

なんというか、やるせない結末である。
Aの方が、起訴されている量も多く、主導的とされているから、仮にBによる全部賠償を前提としても、Aに執行猶予が付されるところまでは行かなかったかも知れない。が、もしBによる全部賠償がAの係属中に行われていたら・・と思わざるを得ない。

というような話を見ていて、「原審弁護人はAに控訴を勧めるべきだろうか」と考えると、(Bによる全部賠償という予想外の事態なしには)展望が無く、しかも部分算入で未決を値切られるような控訴を軽々に勧められない、ということになるだろう。しかし、展望が無くても全部算入なら、とりあえず控訴しておいて損はないのでは?という助言も可能になる。
悪いのは頑ななまでの全部算入拒否にあることになる。

ここまで議論していて、なるほど頑ななまでの全部算入拒否は、上訴を抑制することが狙いなのか・・と思い至った次第。
だとすれば、裏を返せば理由ある上訴(という表現も些か不遜であるが)まで抑制される危険がある、ということになるのだが、裁判所はその点をどう説明するのだろうか。

(弁護士 金岡)