1.まずは決定理由を引用する。
「本件保釈請求は被告人が上記2件を含む同種詐欺3件について懲役3年2月の実刑判決を言い渡された後のものであり、裁量保釈の当否のみが問題となるところ、弁護人は、原決定は裁量保釈の当否に関する判断を誤つているという。しかし、上記のような事案の内容や刑期の長さ等に照らすと、防御上及び社会生活上の必要性等に関して弁護人が指摘する事情を踏まえても、裁量保釈は適当でないとした原決定に裁量逸脱の誤りはない。(名古屋高決2023年7月13日、田邊三保子裁判長、細野高広裁判官、海瀬弘章裁判官)」

はあそうですか、それで保釈が認められない理由はどこに書いてありましたっけ?と言いたくなる決定である。しょぼい、というと、しょぼい方に申し訳なくなる。中身が何もないのだ。
詐欺3件で懲役3年2月だと保釈を認めないという方程式でもあるのだろうか?しかし実際には、本欄2021年12月12日のとおり、同等以上の実刑事案で保釈が出ている実例がある。このような方程式は成り立たない。となると、文字通り理由付けゼロで、保釈を不許可にされたことになる。

2.そこで思い出したのが、「人には1215年のマグナカルタから移動の自由がある」という名言を紹介した、「武器としての国際人権」(藤田早苗・著)である。
同書は一般向けに編まれた、国際人権を前進させる取り組みを主としてイギリスにおける見聞結果を意識しつつ紹介した書籍であるが、どうして、なかなか法曹実務家にも参考になるところが多い。
特に、上記のように理由付けゼロで保釈を不許可にして良いと思い込んでいる手合いには、何頁か煎じて飲ませても良いだろうと思う。同書284頁では、このような人権感覚は特に訓練しなくとも、育ちながら学びながら体得していくものだと紹介されている。上記のような手合いは、育ちも学びもしなかったに相違あるまい。

3.なお、本件はみてのとおり上訴保釈の事案であるが、検察官から、早速、改正刑訴法を悪用した主張が出されたことも紹介しておこう。
曰く、上訴保釈は改正後刑訴法344条の「不利益の程度が著しく高い場合」でなければ認めるべきではないという。
条文の但し書きを無視していることもさることながら、「今回の規定は、そのような判断枠組みを変えるものではないと理解しております。」としている法制審の議論もまるで無視、誤導甚だしいものである。

(弁護士 金岡)