2週間ほど前だったか、イギリスの裁判所で、日本への被告人の引渡しが人権保障の観点から認められなかった趣旨の判決がされたと報道された。日本の刑事司法に対する国際的評価を知る上で有用と思い、読みたく思っていたが、高野隆弁護士が邦訳をブログに掲載されていたので有り難く拝読した。

先行事件の判決を踏まえて読まなければ全体的な理解は得られないかも知れないが、大要、次の如くである。

日本政府が英国籍の刑事被告人の引渡を求めたことに対し、法律の規定と実際の運用とに乖離があり人権侵害になるとの申立がされたことから審理を行い、条約上の人権保障が十分になされるかが争点である。
この観点から、【ダイヨーカンゴク】「制限時間の潜脱」「留置場での不当な扱い」「拘束具の誤用」「弁護士へのアクセス」「圧迫的な取調べ-その長さ」「抑圧的な取調べテクニック」「取調べへの弁護人立会並びにビデオ録画がなされないこと」【未決拘禁】「拘禁場所が不明」「物的環境(夏の耐え難い暑さ等)」「医療」「規律」等々と詳細な検討、評価が続けられている。
例えば「制限時間の潜脱」については、犯罪事実を分割して拘禁時間を実質的に延長出来ること、実際にもそれが行われていることが指摘されている。
「圧迫的な取り調べ」については、日本政府が形式的な規則の説明に終始していることへの不信感が表明されている。
「取調べへの弁護人立会」については、「この国際的に認められた最低基準を提供するという保証を提供しない理由がわからない」とまで書かれている。運動に関しても、「日本政府は・・ヨーロッパ人権条約3条に適合していないことを理解していない。しかも、証拠によれば、そのような最低基準さえも常に守られているわけではない」と、ばっさりである。

長文なので詳細は前掲ブログに当たられたいが、結論的に、判決は、「日本では合法とされるが人権条約締約国では行われていない処遇への懸念」が解消されるだけの保証がされなかったこと、「日本は、システムを監視するための国際的な基準に適合するシステムをもっていない」こと、日本政府は反証機会を与えられたが、上記の保証を約束しなかった、等として、日本政府への引渡しを免責した。

このような内容の判決であるので、日本の事と知らずに読めば、とんだ人権後進国だと嗤いながら読むことになるだろうが、日本の事と知っても、反論の余地が見出せないので、納得するしかない。
傍目八目と言うが、忖度なく第三者の評価に晒せば、おかしなことだらけの、人権国家を標榜するならあるまじき実態があり、裁判所を含め、それを糺す装置にはなっていないということが見事にすっぱ抜かれている。
一つの議論の契機としなければならないだろう。

(弁護士 金岡)