こういう事案を想定して欲しい。
被告人が危険性を認識していたかが争点である(本質を損なわない程度に改変した)。
被告人の「自白調書」では、僅か2頁の間に、
① 十中八九、安全だと思っていた
② 今から思うと、安全か危険か五分五分だった
③ 危険だと思うが、イチかバチかでやった
④ 危険だということは分かっていた
というように、供述が180度以上、変遷している。

原審弁護人は、④部分はかろうじて不同意にしたが、検察官が法322条1項請求をしたことに対し、7号・8号の開示を受けることもなく、異議なし意見を述べた。
被告人は、安全だと思っていたと主張したが、原審弁護人は「危険であっても構わないと考えていたことを認める」と弁論した。

このような場合、控訴審弁護人は何をしなければならないだろうか。
少なくとも、被告人の主張が、採用された「自白調書」と整合しない以上、まずは、7号・8号開示を受けて、この出来損ないの「自白調書」までに、どれくらい密室の取調べがあり、実際の「自白調書」は録音録画ではどのようなやり取りであったか、点検しなければならない。それを踏まえて控訴趣意を構成しようと思うはずである。

ところが実際の裁判では、そうはいかない。
控訴審の検察官は、開示請求からたっぷり一月半をかけて、公判期日まで1週間を切ってから、厚み十数センチの供述調書の束を開示したが、何故か取調べ状況報告書は開示しないと言い張り、控訴審裁判所もこれを放置した。

裁判所はまた、控訴審弁護人~つまり私~が、「先週末に録録データの謄写が済んだところで、調書の束はまだ被告人に届いてもいない」と控訴審第1回期日で説明したにも関わらず、「すでに結審できる状態にある」と宣言して、弁論を終結させ「ようとした」。

勿論、証拠開示を行わず異議なし意見を述べた原審弁護人は「どうかしている」。期日直前まで7号開示をせず、8号開示は拒否する控訴審検察官も「同程度に、どうかしている」とは思う(こちらは検事長に苦情を申し出ておいた)。
しかし一番酷いのは、このような惨状、つまり原審では武器対等当事者による充実した審理が行われておらず、一方的に検察側に有利な審理だけが積み重ねられており、いま正に裁判体の目の前にある一件記録は適正な心証形成に堪えない、歪んだものである疑いがあること、を認識しながら(理解できるだけの能力は無いのかも知れないが認識はしているはずだ)、「すでに結審できる」と宣う裁判体であろう。

このような裁判が、2023年現在、行われているのだから凄まじい。
実際の展開では、続行するかどうか合議するといわれた時点で悪い予感しかしなかったので忌避申立に思いを巡らせ、「すでに結審できる状態にある」と言われた瞬間に忌避申立をした。考慮時間1~2分では十分に言を尽くせないが、私は、私が言っていることに間違いは含まれていないと思うので、例の如く、ここに公開しておく。

(申立の趣旨)
裁判官杉山愼治、後藤隆、入江恭子を忌避するとの決定を求める。

(申立の理由)(公判調書文字起こし版)

裁判所は結論を出していないが、現時点で弁護人が弁号証を請求していないとか、結審できる状態だとのご発言なので、このまま裁判を結審させる予定であって、そのあとに期間を設けて弁論再開の検討をするかもしれない等と仰るかもしれないが、手続としては結審する予定だと言おうとしたというように受けとめた。弁護人としてはその点については、全く承服できないし、この裁判の第一審以来からの経過から考えると、そのような判断は、もはや公正な裁判所としての姿勢にあるまじきものだと判断する。

具体的に述べていくが、まず、控訴趣意書の冒頭で強調したとおり、この裁判は一審で弁護人が被告人の主張をまともに理解せずに、【略】を争わないという暴挙をした事件であり、それ自体が弁護過誤である。
その弁護人は甲号証を漫然と全部同意し、一切の証拠開示を受けていない。乙号証についても、7号・8号の開示もせずに、任意性について異議なしという無茶苦茶な意見を述べているという経過である。
このような弁護人はまさに無能の極みであつて、まともな弁護活動を提供したとはいえない。例えば採用 された乙号証のうち、検面調書の中に、録音録画をみると、被告人が言つてもいないことが書かれていたとするとどうであろう。その場合、検乙号証は、被告人の意思とは無関係なことが書かれている証拠能力を欠く証拠というべきであるが、裁判所はそれを弁護人に確認する時間すら与えようとしていない。本来であれば第一審の弁護人がすることであるが、同弁護人はそれをしていないし、当審弁護人もそのデータを金曜日に受け取つたばかりでまだ中身を見る時間もないという、ごくもっともなことを述べている。このようにみると、例えば今の乙号証の証拠能力の議論一つをとつてみても、第一審で何らの弁護がされていない。控訴審においても開示を受けた証拠を見る時間すらなく、内容を確認していないから、何が中身に入つているのかわからない。これまで裁判所が全く考えもつかないようなひどい取調べが行われているかもしれない。そういつたことを一切無視して、審理を打ち切ろうとしているわけである。このような姿勢は、およそ虚心に、被告人の主張に耳を傾けて、合理的疑いに十分配慮して間違いのない裁判をしようという姿勢ではない。かかる姿勢がない裁判所が公正でないことは明らかである。これは、訴訟指揮の問題というよりは、ここに座つている3名の裁判官の基本的な素質の問題。冷静に被告人の主張に耳を傾けるのではなく、有り合わせの証拠で有罪判決が書ければいいという程度のことしか考えられない、最低限度をわきまえない資質の問題と解さざるを得ない。

翻って考えると、控訴趣意書で述べたとおり、当審裁判所はもともと控訴趣意書作成準備を含む被告人の防御権を軽んじてきたという歴史がある。すなわち、控訴趣意書期限の延長申立は4回あるが、3回延長され4回目の延長が認められなかったという経過であるが、特に3回目の延長に関して弁護人は、まだ被告人の全供述録取書等の開示すらないから、準備ができない旨を述べて延長が認められた。その2週間後、証拠開示が1ミリも進んでおらず、弁護人が同じ理由で延長を申し立てると今度は延長を認めない、という矛盾した反応がなされた。それをみて弁護人としては、裁判所は、被告人の防御準備のために待っていたのではなく、第一回公判がきちんと開けるのであれば延ばす、開けなくなるのなら準備期間を与えないという、そういつた形で判断していただけだということを認識した。結局裁判所は、被告人の防御準備の問題ではなく、もつぱら期日管理にしか関心がなく、被告人の全供述録取書等を見ないことには任意性に関して十分な反論準備ができないといっている弁護人の主張など、はなから相手にしていなかったと考えるほかない。

被告人とAとのやり取りが録音されているデータ等に関しても、同様に、スマートフォンを開いてようやく見つけたけれども、LINEデータの方が揃つていなかったので、これはなぜかわからないけれどもまだ一部しか開示されていない。検察官がこれ以上開示しないのであれば、スマートフォン本体を見に行くしかないということを(この期日で)言った。そういつた証拠について作業が末了であると、それを踏まえて弁号証を提示しなければ、控訴審における防御準備が十分にできないと述べているにもかかわらず、ここで打ち切れというのは、そんなものを見ても結論は変わらないというふうに裁判所は思つているということである。そういつた姿勢は、公正な裁判所のとるべき姿勢ではない。おごり高ぶつているといわなければならない。攻撃する側の、つまリ一方当事者の立場である検察官や警察官ですら、被疑者被告人の言い分に冷静に耳を傾けて慎重に結論を出さなければ、冤罪の危険があるということを理解しているのに【註)ここでは犯罪捜査規範などを援用して論じたが、裁判所の調書では一方的に削除されている】、それを真ん中に座つて一番体現しなければいけない裁判所が、そんな証拠を見なくても裁判を打ち切つていいと、よく言えたものだと軽蔑する。このような訴訟指揮は、公正な裁判所のやることではなく、控訴趣意書の問題等、踏まえて考えてみると、結局裁判所 は、既に有罪ありきの結論に至っており、弁護人が何を言おうと、耳を貸す姿勢がないということである。以上から、当審裁判体は、合議の上、結論を出されたからには3名とも、被告人の言うことに冷静に耳を傾ける方々ではない、何があるかどうかわからないけれども、もう有罪と決めているから、他の証拠は見ないという偏頗な姿勢の裁判所であり、これは手続外在的に裁判をする資格はないということを意味する。よつて、忌避を申立てる次第である。

なお、この忌避申立ては、もつぱら訴訟遅延を目的としているものではなく、弁護人 は、被告人のために可能な限り十分な手続保障がなされ、十分な証拠が集められるように努力をしており、今までの間、開示された証拠は直ぐに被告人と共有し打ち合わせをしたうえで本日に臨んでいる。このように弁護人は、怠慢のそしりを受けるようなことはなく、十分に訴訟の準備を尽くしてきているのであつて、被告人の身体拘束が長引く中で、訴訟遅延をわざわざ図る理由もない。弁護人は、Aさんの関係とか【略】とかの証拠もきちんと収集することで、本件は、被告人が【略】だということを明らかにすることになるが、それが現時点では道半ばであるから、弁論を閉じることは早計である。そうしようとする裁判所には退場を願う。
【註:このあと、せめて簡易却下せず、潔く他の裁判体に自身の行状を審理させるべきだと勧告したが、そのあたりも全て一方的に削除されている】

裁判長

簡易却下決定。

裁判所は弁論を終結して判決宣告日自体は10月下旬を指定したいと考えている。弁護人が先ほど仰られたとおりの準備をされて、事実取調べ請求あるいは主張の補充などをされるのであれば、その前に再開請求をして、主張の補充と、事実取調べ請求をしていただ きたい。

(補足)
資質がないとか、退場しろ、というのは言い過ぎだろうか。仮にも高裁裁判官まで務めあげている法律家に対しては、言葉を選ぶべきだろうか。
私は言い過ぎだとは思わない。1~2分、更に陳述しながら文章を練りつつ、適切な表現を考慮して言葉を選び、口にのぼせている。

(何故か調書から削除されているが)犯罪捜査規範や検察官の心得「ですら」、謙虚に、客観証拠を希求すべき事を謳っている。ましてや裁判所が、それができないとなると、裁く資格などないとしか表現のしようがなかった。「何故あんな奴らの弁護をするのか」風にいうなら、「何故あんな奴らに裁判をさせるのか」である。
わざわざ遠方から公判傍聴に来られた被告人の親御さんは、忌避陳述途中から嗚咽されていた。大事な子どもの運命を「あんな奴ら」に委ねなければならないのだから、その情けなさ、悔しさたるや計り知れないだろう。

(弁護士 金岡)