本欄本年7月14日付けで、改正後刑訴法344条2項を悪用した保釈妨害が発生していることを報告したが、事実、同法施行後は上訴保釈が断然、厳しくなった感覚である。今までに無く立て続けに不許可とされる事態が相次ぎ、同じ感覚を口にする弁護士も複数、見受けたところである。

先週、改正後3件目にして漸く、上訴保釈(というか上告保釈、つまり実刑後の控訴棄却直後の再々保釈)が許可されたのだが、その事案は、第1審が諸事情により丸々5年も係属した覚醒剤自己使用事案(控訴審は約6ヶ月)であり、執行猶予期間満了後の再犯事案であるが、ともかく起訴直後に保釈されてから(うちは保釈後に受任した)丸々5年半も保釈されており、その間、定職があり、当たり前だが期日出頭も怠らず、途中からは通院治療及び自助グループ参加もしていたという事案である(第1審、控訴審とも、懲役1年6月の実刑)。

丸々5年半の保釈状態、定職、通院治療及び自助グループ参加という、然るべき保釈理由が積み重なっているのに(そういえば単身独居なので特に身元保証書は出さなかった)、検察官の意見は「不相当であり直ちに却下」という、「強・中・弱」の「強」の意見であったから驚きである(ただし、「強」の割には、異議申立はなかったが)。
更に言えば、「逃亡するおそれの程度」に一言も触れることなく、2項本文の「同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合」を要求する欺瞞的な内容であったから、二度、驚く。

こうやってずるずると、上訴保釈は極めて例外的なものだと喧伝し、既成事実化する作戦なのかも知れないので、警戒が必要である。数年後、上訴保釈率を調べたときに、統計的に有意な差があるとすれば、それは(裁判所がダメなのか)刑事弁護人の努力が足りていない、ということになりかねない。

この文脈で、許可事例を集積していく営みは当然に必要である。
別の弁護士の担当事例として、こういうものがある。
覚醒剤取締法違反及び盗品等処分あっせんにより懲役3年6月・罰金20万円の実刑判決の言い渡しを受けた被告人(なお執行猶予中の再犯事案である)に対し、合計600万円の保釈保証金で控訴後の再保釈を許可した名古屋地裁豊橋支部2023年8月25日決定。保釈中の通院を更に継続する必要性が、主たる保釈理由のようである。

ともあれ、保釈実務が悪い方向(反憲法的)に歪められようとしている分岐点にあるので、意識的に対応する必要がある。

(弁護士 金岡)