【1】
本欄本年10月21日「仕事を『さぼらなかった』名古屋高裁」において、漫然と保釈抗告審の判断を月曜送りにしようとしていた名古屋高裁に激しく苦情を申し立てて、なんとか土曜日に判断させ、その日中に釈放に漕ぎ着けた案件を報告した。

それから一月、攻守入れ替わり、こちらが金曜夕刻に抗告した案件であるが、原審担当部の書記官から「判断は月曜にすると伝えてくれ」的な伝言と共に月曜送りを宣言された案件が係属中である。
土曜昼過ぎに抗議書を送付するも、梨の礫であり、おそらく、出勤すらしていないのではないかと疑われるところである(もし記録検討や合議のために土曜出勤していたなら、人として抗議文に対する応答があってしかるべきと思われるからである・・まあ「人として」の対応を期待して良いかは甚だ疑問であるが)。

同じ名古屋高裁刑事第1部であり、一月前に猛然と抗議して土曜中に判断するところまで「矯正教育」を施せたと思っていたが、一月も経つと元の木阿弥のようである。
釈放方向に迅速な裁判をしようという規範意識が育っていないと、ちょっとやそっとの矯正教育ではどうしようもないということか。
いつもいうことだが、土日を厭わず逮捕勾留はするが、保釈裁判よりは土日の休息を優先するという発想はどこから出てくるのだろうか。どちらの結論を採るにせよ、判断機が熟せば可能な限り迅速に行うのが憲法の要請であろう。

【2】
さて、同じ名古屋高裁刑事第1部の話題をもう一つ。

類型証拠開示の開示命令に対し検察官が抗告した事案で、提示命令の告知を受けて審理が進んでいることが分かり、検察官の抗告理由を謄写し、「反論するから10日ほしい」と要望すると「3日しか待たない」という。
3日では到底、対応出来ないと抗議文を送付するも、一方的な〆切の翌(営業)日にいきなり決定を書かれたという経過である。

まるごと抗告棄却ではなく、医療記録の開示命令に対し、添付されたCD-ROMのみ「流出した場合の回収が極めて困難である」として開示命令を取り消す不利益変更を行っている(杉山慎治裁判長)のに、防御機会を与えることもなく勝手に決定を出してしまうと言う無感覚の極み(※1)。
上記【1】もそうだが、防御権や手続保障に鈍感で、そういったものを犠牲にすることには痛痒を感じない属性と評価するしかない。名古屋高裁刑事部といえば、本欄でも何度も登場する山口元裁判長や高橋元裁判長のような錚々たる面子が揃っているが、今の部も十分に肩を並べる資格がある。

(※1)検察官の抗告理由は、要約すると、(1)検察官が立証したい被害者供述の中核部分の証明力判断に関係しない証拠の開示命令は違法、(2)医療記録のような高度プライバシー情報を弁護人に開示すること自体が、尋問時に被害者を困惑させ不当、などという、一見して理解しがたい、意味不明なものであった。

(弁護士 金岡)