【1】
良く分からない流れで、気がついたら記者クラブで説明する羽目になっていたので(確定前の刑事事件について取材に応じることはないが、性懲りも無く取り囲み或いは追いすがるマスメディアに対し、正直なところ良い印象はない。かのG先生が「取材に応じない理由なら幾らでも取材対応する」と喝破されて至言であるが、生憎、取材に応じない理由を取材に来るマスメディアはなく、溝は深まるばかりである。)、こちらでも報告しておくことにする。
この9月に2件、国賠を提訴した。
何れも、本欄「歴史に残すべき無罪事件」の絡みである。
【2】
1件目は、「歴史に残すべき無罪事件」で報告しているように、差戻前第1審を途中から担当していた平間文啓検察官が、論告前、少なくとも第1審判決前には、その論告を客観的に破綻させ有罪判決が不可能になるだけの客観証拠(LINE履歴)を入手していたにも関わらず、それを秘して、うまうまと有罪判決をせしめた、という案件である。
上記事実関係に争いが生じるとは思われない(高検検察官が、平間検察官は確かに入手していたが開示に思いが至らなかっただけだという説明をしている)ので、この事件の主眼は、有罪判決が不可能になるだけの客観証拠を入手していた検察官が、それを秘して有罪判決を獲得することの国賠法上の違法性、ということになる。
これを否定する裁判官は先ずいないだろうが、きちんとした司法判断を得ることは、依頼者個人にとっても、刑事司法全体にとっても、重要なことだろう。東の大川原事件、西のプレサンス事件は夙に有名であり、大きく先を進んでいるが、それに肩を並べる資格はあるのではないか。(本件が無名だとすれば、それは凡そ広報というものに関心も技術も持たない代理人弁護士=私の責任であろう)
【3】
2件目は、本欄「被疑者補償の機能不全~起訴して貰えなかったばかりに」で報告した被疑者補償不支給裁定についての国賠である。
といっても、国賠は「再々予備的請求」の位置付けであり、(1)被疑者補償不支給裁定取消請求、(2)憲法13条に基づく被疑者補償請求、(3)憲法29条3項に基づく直接請求、(4)国賠請求という法律構成である。
それぞれの論点について研究を要するが、ここでは深入りしない。
強調したいことは、客観的に「その者が罪を犯さなかつたと認めるに足りる事由がある」事案に於いて、検察庁が被疑者補償を拒む場合に、国賠以外の、つまり違法有過失を持ち出すまでもなく補償される司法救済がなければおかしい、ということである。前回報告の通り、起訴されていれば刑事補償が受けられただろうのに(刑事補償は国側の違法有過失を要求しない)、不起訴になったばかりに被疑者補償が受けられない(違法有過失の主張立証を要する国賠しかなくなる)、というのは背理だからである。
(弁護士 金岡)