最近、気になることとして、刑事控訴審第1回公判の空転がある。
第1回公判に余裕を持った控訴趣意書提出、答弁書提出、そして第1回公判、という流れであるべきだが、第1回公判で検察が「次回期日までにこれこれの書面を出す」というような対応に出ることが少なくない。

例えばある事案では、第1回公判期日の約1か月前に控訴趣意書、事実取調べ請求(20点弱)を提出済みであったが、書証について不必要、不同意の連絡があった程度で第1回公判期日を迎え、裁判所からさて進行はと問われると「弁護人が問題視している検察官の共犯者調べの実情を中心に反論を準備する」ということで続行期日となった。

またある事案も、同様に第1回公判期日の約1か月前に控訴趣意書、事実取調べ請求(20点弱)を提出済みであったが、書証について不必要、不同意の連絡があった程度で第1回公判期日を迎え、裁判所から弁護人の私的鑑定を審理対象とする方針が示されると「実は検察側でも専門家に協力を打診中」ということで続行期日となった。

実際のところ、控訴審で実質審理入りしている事案は現在手元に5件ばかりあるが、第1回公判期日前に検察の答弁書が出た事案は1件しかない。
検察は、控訴審で答弁書を出す基準をどのように考えているのか、実際のところは分からないが(過去の経験で、検察が答弁書を出さず一回結審した控訴審で、予想通り原判決を破棄し、差し戻す判決が出たことがある)、裁判所が弁護人の主張に取り合おうとするか様子を見て、取り合いそうなら答弁書等を出す、という対応をしているのではないかと勘繰りたくなる状況である。
もしそうなら~つまり裁判所の顔色を窺って対応を決めているとすれば~公益の代表者として弁護人の主張に理解を示し、検察の主張立証に誤りがないかを虚心に確認するのではなく、形勢が悪化することを防ぐに汲々としていると言うことであり、少々、惨めったらしい。

裁判長の個性によるのかもしれないが、検察の応訴方針が明確にならないままにずるずるし出す進行に対し、裁判所が打ち合わせ期日を活用しようという事案も増えてきている。ここ数年、名古屋高裁で打ち合わせ期日が活用された事例はついぞ記憶にない(相当の実質審理を行い逆転無罪や破棄差戻に至ったものですら)が、控訴審の実質審理は一審ほど広がらないとはいえ、実質審理を行う以上は要を得た攻撃防御が手続保障上、求められるのだから、良いことと受け止めている。

(弁護士 金岡)