保釈中の被告人ですら弁護人の隣に座らせない、強硬な訴訟指揮が話題の馬場嘉郎裁判官の言い草を紹介する。
担当弁護人(兵庫県は姫路支部での出来事である)の報告を踏まえると、馬場嘉郎裁判官は、保釈中の被告人を弁護人が自身の隣に着席させたことについて、前のベンチに座るよう命じ、それではと被告人の隣に移動した弁護人に対し、いわゆる弁護人席に着席するよう命じた。
これを第1回公判、第2回公判と続け、弁護人は異議や忌避を活用して抵抗したが、悉く退けられた。
その後の第3回公判で、馬場裁判官は、次のような講釈を垂れたとのことである。なお、第3回公判の手続調書では、かなり要約されているが、心得た弁護人がしっかりと記録に留めた内容の方で紹介する(番号は私が付した)。
【あなたが着席位置につき裁判所の指示に従わなかったことについて、着席位置を指定したのは訴訟指揮権に基づいた裁判所の権限事項なので困る。❶どの位置に座るかについて訴訟関係人に権利はないというのが裁判所の理解。❷本件は共犯者が勾留中であなたは保釈中だが、あなただけ弁護人席に座って共犯者だけ前のベンチに座らせるという対応をとる裁判所はほぼない。❸もしあなたが弁護人を3人雇ったら席が埋まるので、そのときは前に座ることにもなる。❹証人尋問では遮蔽措置をとるときもあるが、そのときに自由な位置に座ると証人が見える位置になってしまうという話にもなるので、そこは裁判所が座る位置を指定しないと裁判が運営できない。訴訟指揮に従わなければしかるべき措置となる。訴訟運営の上で必要だと思うところに座ってもらうことになる。❺医療過誤の事件等で随時打合せの必要があれば横に座ることもあるが、警備の関係で前に座るときもある。シチュエーションに応じてこうしてくださいというのはあるが、それに従ってもらわないと困るということになる。従前の着席位置に鑑みてこのたび命令する。❻違反したら退廷を命じることになる。そうなると出頭と扱わないということになる。出頭と扱われなければ、保釈が取り消されかねないという話にもなる。今後、座る位置を命令したらそういうことにもなりかねない。】
まあひどいものである。
まず❻。公判に出頭した被告人に退廷を命じて、不出頭だから保釈を取り消す。そんなことが出来るはずはない。このような脅迫行為には、公務員職権濫用罪、脅迫罪が適用されると解して良いだろう。
次に❶。着席位置が防御権侵害、弁護権侵害になり得るからこそ、お白州席は廃止された。とすれば、着席位置は、防御権、弁護権と表裏の問題であり、そこには権利性が生じる。裁判所には、防御権や弁護権を侵害しない着席位置を定める責務があるのであり、議論の焦点がずれている(敢えてずらしたのかも知れないし、議論の焦点を正しく捉えることも出来ない程度の能力なのかも知れないし、それは分からないが、おそらく後者だろうと推測する)。
次に❷であるが、そんなことはない。こちらが保釈中で隣、あちらは勾留中で・・、という場面は複数、経験している。馬場裁判官は裁判経験が乏しいのだろうか。
また❸であるが、この裁判所(姫路支部)の法廷の規模にもよるかもしれないが、幾らでも柔軟な対応が出来る。それによしんば、どうしても横並びは3人が限界だとしたら、弁護人が一人、前に出れば良いだけのことである(昨年、遮蔽の事案で、被告人を遮蔽の死角に置く都合上、はみ出した弁護人1名が前の席に座った案件を経験した)。どうして被告人がはみ出ることになるのか、結論に飛躍がある。結局、そうする気が無いからそういうおかしな結論にたどり着いているのである。
なお、❷❸❹に共通して言えることだが、本件はそういう事案ではなかった。単独被告人(共犯事件ではあるが弁論は分離されており、つまり同じ空間に勾留中の相被告人がいたというわけではない)、弁護人も1名である。それなのに、相被告人が勾留されていたら・・とか、弁護人3名ならとか言われても、聞いている方は理解不能だろう。
極端な例を持ち出して自身を正当化しようというのは、rhetoricとは呼べない、愚かしい論法である。
そして❺。「随時打合せの必要があれば横に座ることもあるが」という。
つまり馬場裁判官からみて、被告人は随時、弁護人と打ち合わせる必要は無い、ということなのだろう。一般人が自身の将来を左右する裁判に臨み、頼みの綱は横の弁護人だけ、と言う時に、「随時打合せの必要が無い」と言い切る裁判官を、私は心底、軽蔑する。
「裁判官の非常識」とはいうが、社会常識云々以前の問題だ。
こんな裁判官に、「説諭」されても、笑うなと言う方が難しかろう。冒頭指摘の、犯罪に擬すべき脅迫行為も踏まえ、裁判官として不適格である、というしかない。
(弁護士 金岡)

















