既に報道もされている福岡高判2025年12月17日(松田典浩裁判長)である。
刑事弁護人層からは前向きに受け止める声が聞こえる。

判旨としては、「利益誘導」について第一に取り上げ、否認及び黙秘に転じた被疑者に対し、取調べ担当警察官が「自白すれば立件を減らすと誘いかけ」「黙秘していたにもかかわらず、被疑事実を明確に認める旨の自白調書への署名押印を求めた」ことを、黙秘権侵害の違法ありとし、その他、再逮捕予定を知りながら釈放を示唆して自白調書作成を誘いかけたことも黙秘権侵害の違法がある、弁護人の接見における言動を聴取したことは秘密交通権侵害である、等としたものである。

「利益誘導」部分で、福岡高判が「(被疑者が)事件への関与を否認し、その後は黙秘した以上、・・無罪推定の原則に留意しつつ、事件前後の経緯等の事情を粘り強く質問するなどして、事件への関与の有無についての供述を促すべきであった」としている点は、はっきり言えば時代錯誤的であって評価に値しない。
(原判決を読んでいないので、黙秘する被疑者に対して取調べを続けたことの適法性それ自体が争われていたのかは不明であるが、)今時では、黙秘権を行使している以上、「粘り強く質問する」こと自体が違法に問われるべきであろう。

とはいえ、録音録画媒体がない中で、(古式ゆかしき事実認定手法を用いて、)利益誘導を否定した警察官側の主張を否定し、総じて黙秘権侵害と構成したことは、及第点よりも、やや高評価に値するだろう、とは思われる。

たまさか知人から紹介された事例判断の中には、要旨「黙秘することによって、従前供述が信用されなくなる可能性がある趣旨の説得をしたことが虚偽の説得であるとは言えない」「黙秘をすることにより、疑いが強まったり隠し事をしているのではないかと疑われたりする趣旨の説得をしたことは、黙秘による不利益取扱いを断定的に述べるものとまでは言えない」等と、違法な取調べを真正面から慫慂するだけのどうしようもない裁判例(名古屋地判2026年1月22日、劔持亮裁判長)もあるのだ。

ともかくも、今や時代の要請は、黙秘権行使に対し直ちに取調室から解放しない限り違法であることを認めさせるところにあり(裁判所がそれを保障しないなら、取調室に入らないことを以て黙秘権を守らざるを得ない)、前掲名古屋地判は論外、福岡高判とてまだまだ至らない。

(弁護士 金岡)