本年5月8日、法務研究財団主催の標記セミナーが愛知県弁護士会において開催された。講師は指宿信教授である。
いわゆる刑事デジタル法の内容や問題点を、特にオンライン化関連、リモート化関連を中心に解説頂いたものであるが、本欄2025年4月9日「刑訴法改正論議について」でも紹介したように、指宿教授はこの問題の最先端を知る研究者であり、正に好適の人選、しかも民訴IT化と並ぶ大きな実務変革の話題であるから、さぞかし会場は盛況か・・と思いきや、全くそのようなことはなく、閑古鳥もいないような惨状であった。
弁護士側の(関心の乏しさを含む)立ち後れは如実である(なお、ズーム併用なので、受講者は百数十人規模であったとは思われる)。
知らないことの方が多く、久々に2時間研修を堪能したが、以下、幾つか内容を紹介しておきたい。
【電子令状審査の危険性】
ユタ州における調査では、電子令状審査の場合、審査時間が短縮され、中央値3分、10件に1件は1分で判断されていた、という結果である。勿論、疎明資料の分量などが日本と比べてどうかという問題はあるので、数字だけを捉えた議論は相当ではないが、短縮されていることに危機感がある。
というのも、紙媒体と電子ファイルとは、読む資料として見た時、全くの別物である。実体験では、電子ファイルの方が早く読めるが、記憶に定着しづらく、また、紙媒体であれば発見できる誤字脱字なども読み飛ばす傾向がある。これを前提とすると、電子令状審査は要するに、斜め読みして雑に判断しているから短縮できるだけではないか。
ユタ州の調査に対しては、地元弁護士会も危機感を持って声明を出し、「合衆国憲法修正第4条が求める時間と令状に対する敬意を払うための必要な支援・・方法」の模索を呼びかけているという。
果たして今回の法改正は、電子化により令状審査が内容的に悪化するようなことがないと確認の上で行われたものだろうか?
資料を運ぶ手間が省ける、足を運ばなくて良い、その分を審査時間に充てられるし、審査時間が短縮すれば釈放も早まる、そう聞けば聞こえは良いが(猛吹雪の中を準抗告資料を持って数時間、移動しなければならないような地域が電子化により受ける恩恵は大きいだろう)、斜め読みの粗雑な審査に陥る危険があると聞けば、話は違ってくるのではなかろうか。
【電子的記録提供命令制度】
被疑者に対し、その保管する「証拠電磁的記録」の提出命令が可能になり(罰則による間接強制が可能)、保秘命令を行うことも出来るようになった。
従来の押収手続の場合、積極的な作為が命じられるわけではなかったことと対比すると、仮に証拠電磁的記録の提出命令が、被疑者に、例えば不利益な証拠の積極提出を命じ、拒否すると別罪を適用できるとするならば、法体系の整合性からも、自己負罪拒否特権の観点からも、違和感しかない。この点はもう少し講師に確認したかったところである(パスワード供述義務はないそうだが(条文上の保障はない)、パスワードのかかった記録の提出義務は残る~とすればパスワードを解除する義務を伴うのではないかという疑問が拭えない)。
なお、講師によれば、上記保秘命令を受けた被疑者が、自身の弁護人に、提出命令及び保秘命令を受けたことを相談しても保秘命令違反にならないことは、国会で確認されたそうだが(原典未確認)、条文を読む限り、そんなことはどこにも書いていない。
【デジタル証拠開示による証拠開示の後退】
制度設計の詳細が明らかではないため具体的な議論は難しい状況だが、種々の後退が懸念されることが具体的に報告された。
この点を含め「弁護士会は無視して」制度設計が進められ、弁護士会には何ら詳細が伝わらないまま規制事実化が進んでいることが懸念される。
最高裁の調達仕様書によれば、裁判所・検察・警察の緊密な連携によるネットワーク化が構想されているそうであり、つまるところ弁護士会はお呼びでない扱いである。弁護士会の意見を聞くこともなく制度設計され、様々な不具合が指摘されても、「もう出来上がったので簡単には変えられない」で押し切られる未来が見える。
【弁護の視点の欠如】
・・そもそもの出発点は、刑事手続に関与する者の負担軽減であり、手続保障や防御権保障を充実させるためのものではなかった。弁護権の観点から、後退方向の話題ばかりが目に付くのも宜なるかな、である。
(弁護士 金岡)

















