本欄では引き続き、目撃証言の信用性をどのように争ったか、解説、検討を行う。

1.前回説明したとおり、控訴審の初手から、事件直後の実況見分の全写真の開示を求めた。「全写真」「データ」の開示を求めることは、今や、あらゆる事件において基本中の基本であり、これを怠ると、碌なことにはならない。

2.さて、控訴審で開示された「全写真」中には、驚いたことに、原審では開示されていなかった「事件直後の女性Cによる再現写真」が含まれていた。原審弁護人が、女性Cの全供述録取書等の開示を求めており、再現写真が実質供述であることを思うと、何故、一連の写真の中でこれだけが未開示だったのかは、作為を疑わざるを得ないところである(「全写真」「データ」を開示させると、データファイル番号が連番になっているかどうかで、証拠隠しをかなり防げる)。
最初に説明したが、女性Cは、公判において、何をされたか自体は目撃できていないことを証言した。しかし事件直後には、「こういう形で蹴られた」という再現をしていた。これが原審で開示されていれば、また展開は違った可能性がある。
というのも、目撃者AB、特に目撃者Bは、控訴審判決が排斥したように、足を5~60センチも上げて蹴りつけたと証言したが、捜査段階の再現では「地上すれすれの足払い」を再現していた。そして、新規に開示された女性Cの直後の再現写真もまた、「地上すれすれの足払い」であり、しかも、その再現時に、目撃者ABも居合わせていたことが証拠から判明したからである(検察官は第1審で、ABとCが事後に連絡を取り合うようなことがなかったことを殊更に尋問で引き出していたが、直後の実況見分に居合わせていたことは顕出されておらず、意思連絡がなかったかに偽装した卑怯さを感じる)。
自身への暴行を目撃していない筈の女性Cが何故「地上すれすれの足払い」を再現したのかは分からないが、とにかく、それを見ていた目撃者ABが、(視認状況が良くない中、本来はおおまかな動きしか見ていなかったのに)それに影響を受け、捜査段階では公判証言とは異なる再現をしていたとなれば、目撃者ABの目撃記憶の精度は、外部からの影響により容易に書き換わる程度のものに過ぎないのではないか、という疑いが浮上した。

3.そういう目で改めて目撃者ABの証言を読むと、端々に「・・と思う」「・・筈だ」というような、自分の中で辻褄合わせを行い、目撃証言を紡ぎ出していく形跡があることが分かった。同じ証拠でも、問題意識が異なると、引っかかる場所が変わることは、まま経験するが、正にそれである。
おおまかな動きしか見えていなかったから、女性Cに「地上すれすれの足払い」と言われれば、その受け売りを再現し、しかし、それでは上手く説明出来ない(公判証言中でも、つま先の方で蹴るのはおかしいから、靴の裏で蹴ったのだろうという趣旨の証言もされていた)とみるや、「自分の見たのはこうだったかもしれない」と、更に記憶が修正される。

4.ロフタス「目撃者の証言」57頁は「かなり多くの目撃者は実際に見たこととその後伝え聞いたことを折衷させている」と指摘するが、正にこういうことであろう。
目撃者らは、偶然に居合わせ、その後、遅くまで捜査に協力する、正義感があった。正義感があっただけに、たちが悪い。依頼者を加害者と思い込んでしまい、様々な捜査情報に接し、自分なりに辻褄が合うよう考え、その結果を証言する。警戒心の低い裁判所は、このような目撃者が嘘を言うはずはないという単純な陥穽に陥り、誤判を量産する。
今回は幸いにも、全写真開示を通じて、合同再現見分とも言うべき事態、その後の目撃者の供述変遷過程を追いかけることが出来たため、上記危険を明確に論証できたが、そのような証拠開示の意識に乏しい弁護人であれば、そこまで辿り着けない可能性がある。

5.控訴審判決は、上記のうち、「合同再現見分」や、目撃者の再現の変遷は取り上げなかった(検察官が目撃者の再尋問を請求したが、裁判所はこれを却下したので、第1審で現れていない上記の事実関係に踏み込むことは避けたのだろうか)。
控訴審判決が直接明示したのは、目撃証言に評価が混在していることと、視認状況が良くないことから、細かい部分まで目撃していない可能性があるという限度であり、間接事実の組み合わせから帰結される一つの到達点には相違ない。
なお、控訴審判決は、特に目撃者Bの、足を5~60センチも上げて蹴りつけたとの目撃内容は、それ自体が不自然として、原判決と評価が分かれた。これも控訴審で実験してみたが、依頼者本人に足を5~60センチもあげさせると、よろけてしまい、静止写真をとることも難しかった。勢いでやろうと思えばやれるが、後ろから来た自転車と接触しそうになったという偶然的な一連の流れの先に、勢いを付けて、転びかねないほどに高々と蹴りつけるような事態は、流石に不自然に感じられたのだろう。こういった論争も、原審では特に行われておらず、弁護人の着眼点が大いに展開を左右することが実感された。

(3/3・完に続く)