足かけ3年半、有望株の若手(当時)数名を集めて開始した「身柄裁判」研究を、ようやく書籍にして発刊するところまでたどり着いた。
その名も「勾留準抗告に取り組む――99事例からみる傾向と対策」である。99事例もの決定文を収録し(意図的に99にしたわけではないが見栄えのする数字だ)、種々の検討を加え、認容に繋がる要素の抽出や、もとより現状に甘んじない建設的な提言まで、広く論稿を集めた。実務家には勿論、研究者にも参照頂ける水準かと自負する。
本書は、現代人文社の刑事弁護叢書の22番目になるようである。年内には書店に並ぶとのこと。是非、御批評を頂きたいと思う。

・・とまあ、これで終われないのが本欄の性質である。本書の発行に際しては、随分と下らない横槍が弁護士会(刑事弁護委員会“方面”)から入れられたことを言わないわけにはいかない。愚痴の方が長くなるが、気が済まないので、以下、書いておく。

もともと、特段の会内手続不要と言われて始めたはずが、情報問題を扱う部署や刑事弁護委員会なる組織の同意を得なければならないかに進められ、非常に混乱した。とある外部者からは「弁護士会は理事が交代すると意思決定事項は引き継がれないのですか?」と皮肉を言われる始末。

更に、そのような混乱の中、「個人情報に配慮して裁判日付を匿名処理できないか」と、こうきた。裁判例の研究書で決定文の収録が一つの売り物だというのに裁判日付を消しては何の意味があるのだろうか。その思いつきを口にする前に誰か止められなかったのか??というほど異常な横槍であり唖然とした。とある弁護士からは「裁判日付のない変な裁判例集が書店に並ぶところだったね」と皮肉られた。

お次は、裁判例に出てくる「日」を全て消してほしいときた。おわかりの方はおわかりだと思うが、勾留裁判というのは、時系列が非常に意味を持つ。例えば実質逮捕先行問題然り、捜査先行による罪証隠滅の可能性の低下然り。個人情報はもとより守られるべき人権であるが、形式的に何でもかんでも消すことは、愚にもつかない思考停止である。世に問うべき研究書の価値を損なわず、かつ、人権も損なわないぎりぎりを調整しなければならないときに、刑事弁護委員会という仮にも刑事弁護を扱う部署“方面”から、研究書の価値を無視した思考停止意見が飛び出すことには、諦め混じりの強い失望を覚えた。
裁判所が人権規範である等という気はさらさらないが、最高裁の裁判例集はウェブサイト上で露骨に具体的日付を出していることが多い。そういう利益考量の結果を弁護士会が否定したいなら、それなりの理論武装~勉強~をしてきてほしい。
結局、どうやら情報問題を取り扱う部署が本書の性質から個人情報保護法の適用は除外されると裁断したため、刑事弁護委員会“方面”からの横槍は収まった。実に馬鹿げた横槍だったと言わなければならない。

とまあ、色々とケチはついたが、数年がかりの業務が実り、類書もなかろう。是非、御批評頂ければと思う。

(弁護士 金岡)