原審で被告人質問も実施し、無罪となり、検察官が控訴した事件を受任した。本欄本年1月26日「名古屋高裁刑事部の訴訟指揮」、2月15日「珍しい異議認容決定」で紹介したのと同じ事案である。

(当然のごとく実質審理入りした後の)ある公判期日において。
山口裕之裁判長 「検察官、被告人質問は請求しないの?」
検察官 「請求したいと思います。立証趣旨は××。」
裁判長 「弁護人、御意見は」
弁護人 「全て黙秘権を行使しますので不必要。また、やむを得ない事由もない。」
裁判長 「次回実施します。出頭命令を出します。」
弁護人 「いまから黙秘権の意思を確認して下さい。意思が確認できれば、それ以上は要しないでしょう。長時間質問攻めにする等の黙秘権行使が萎縮しかねない事態は認められない。」
裁判長 「そんなことはしませんよ。じゃ、次回。」

と、こうである(ちなみにこの日は、審理時間がまだ、たっぷり10分、残っていた)。
黙秘権行使をする、と弁護人がはっきり述べているのに、出頭命令まで出す。
黙秘権行使をするという被告人に対し、証言台に立たせることを強要する。
黙秘権を尊重していない。

今後は、山口裁判長は、黙秘権の説明を、「いつでも理由の如何を問わず黙秘できますよ」「でも、証言台に立つことは強制しますけどね」と変更すべきだろう。

(弁護士 金岡)