現在、名古屋高裁に係属している国賠事件で、衝撃的な出来事に遭遇した。

国側から提出された書証が、「名古屋法務局訟務部 御中」の「名古屋地方裁判所刑事次席書記官」名義の「調査報告書」だったのだ。
つまり、国側の代理人を務める名古屋法務局訟務部が、名古屋地裁の書記官に一定の事項について報告を求め、名古屋地裁の書記官がこれに協力したと言うことになる。
無論、名古屋地裁の書記官が個人的にこのような対応をすることはないだろうから、名古屋地裁の然るべき部署の判断として、国側に有利になるよう、国側の応訴に協力したと言うことになる。

これは、考えてみたら恐ろしい話ではないだろうか。
本件は、特定の裁判官の法廷警察権行使を捉えた(言ってしまえば、例の傍聴席ノートパソコンを巡る事件の)国賠事件であり、特定の裁判官が実質当事者であることは確かであるが、責任追及を排撃するために、裁判所が組織として一方当事者に協力することが許されるのだろうか。ましてや、名古屋地裁は、同事件の原審を担当しているのであり、未確定の(控訴審係属中の)現状では、差し戻し審を担当する可能性も残されている。中立公正であるべき受訴裁判所に準じる立場の原審裁判所が、一方当事者の、いわば私的な求めに応じ、組織として協力するということに、私は、公正さの欠片も感じられない。
この報告書は、前記次席書記官がわざわざ、複数箇所の裁判所に電話して回り、事情を調査して、それを名古屋法務局訟務部に報告している。最早、裁判所職員が国側の手先を務めていると言わざるを得まい。

訟務部も訟務部である。
もし、裁判所に一定の事項の報告を求めたいなら、文書送付嘱託や調査嘱託という手段がある。受訴裁判所に当該事項の証拠調べの必要性を疎明し、採用させ、照会先となる裁判所が飽くまで中立公正に回答する。これならわかる。
しかし今回はそうではなく、手続外で私的に行われている(少なくとも私は、一訟務部が、情報公開請求の形によらずして、地裁書記官に報告書を作成させるような根拠法を知らない)。頼む方も頼む方だ、とは思う。

とはいえ、根源的には応じた裁判所の方に問題がある。
裁判所が組織的に国側に就く国賠訴訟というのは、果たして裁判なのだろうか。
かなりの衝撃を受けた。

(弁護士 金岡)