多摩支部の御依頼(形式的には日弁連からの講師派遣制度)で、先日、件名の研修を実施した。2012年に東京三会で実施して以来、五指に余る程度には実施例があるが多摩支部では無論、初めて。聞くところでは、多摩支部でも外国人相談事業を開始したそうで、今後の需要増を見込んでのことなのだろう。

いつもの刑事弁護中心では無く、入管収容問題や行政争訟にも言及するよう求められたので、いわゆる「在特義務付け」の話題や、昨今話題の仮放免問題(過剰収容問題)、入国管理局に対する証拠保全事例など、改めて整理する機会となったのだが・・正しく治外法権の世界、刑訴法に守られている刑事事件が理想的な手続保障に「見えてしまう」ことを痛感させられた。

例えば、刑事事件で執行猶予付き有罪判決を受け、退去強制処分を受けるも、取消訴訟を提起した外国人がいるとする。取消訴訟は敗訴したが、その間に日本人の伴侶を得て入籍準備も進めていたため「再審申入れ」を行い、その間、仮放免が続く。
ところが、ある時、再審の結論は出ていないのに、いきなり収容される。数年来の仮放免を恙なく過ごしてきたのだから、収容する理由が発生したとは思えないのだが、収容される。爾来数ヶ月、再審の判断を待っていると(この段階では「本案訴訟」がないので仮の義務付け等に進めないが、さりとて本案訴訟を起こすと、入管はそれを口実に再審を無視するようになるというdilemmaがある)、ある夜、いきなり「再審は認めない」と告げられ、翌早朝、寝込みを襲われて午前中には国籍国に送還される、というようなことが現に起きている。

理由も無く数ヶ月、収容するという、その判断は、入管による判断であり、司法審査も無い。実刑判決に至るには相当の手続が必要だし、その間の勾留も(どこまで真面目に審査されているかはともかく)一月ごとの審査を受けるのが刑訴法の世界だが、これに対し、入管は、自己完結の世界で理由無き収容を行える。
法格言に曰く、何人も自分の事件について裁判官となるなかれ、というが、入管は、自分で自分に令状を請求してこれを許可しているようなもので、それによる無期限収容、司法審査は労力的、時間的、及び裁判所の超消極姿勢故に機能不全、という事態だ。

研修でも、現場で工夫し実践している幾つかの手法を紹介できた程度で、結論は、せめて司法関与を手厚くする手続法の制定が不可欠というに尽きたのだが・・刑事事件に熱心に取り組む多摩支部の弁護士層は刑訴法の理念~これはつまり憲法の適正手続の理念でもある~を体得してるだろうから、積極的に入管行政分野に参入して貰える縁となればと思う次第である。

(弁護士 金岡)