既に議論が出尽くしている感があるため、本欄で何か新しく加えると言うほどではないが、やはり実務家法曹としては一言二言、書くべき重みがある問題である。

法解釈が変更されること自体は有り得ることである。
しかし、立法時点の議論=立法権の行使の大前提を変更するのであれば、立法府に諮り法改正で対応するのが本来的である。少なくとも立法府に断りもなく、立法権の行使を受けて執行すべき立場に過ぎない行政府が勝手に変更することは許されない。
特に現政権は、法の支配どこ吹く風であるが、今回の問題もまた、行政が極度に肥大化し、法の支配を受ける立場を弁えない一幕に違いない。そして、息を吸うようにウソをつく現政権であるが、苟も弁護士出身の法務大臣がこれに加担するとあっては、世も末というべき病理現象である。

さて、今回の問題に裁判的に対応できるだろうか?と考えてみた。
定年延長後の国家から支給される給与が違法支出だという住民訴訟的な営みは、残念ながら国家の行為には使えない(これは本当におかしな制度的欠陥だと思う)。「定年延長無効確認訴訟」というのも、原告適格の問題で筋が宜しくない。

考え得る理屈としては、第一に、延長後の同氏からの職務命令に対し、職務命令を受けた側が無効確認訴訟を起こすことだろう。職務命令を受ける地検や区検の職員にかかる行動はなかなか期待できないかもしれないが、一人くらい、自らを犠牲に差し出して法の支配や正義に殉じようという人がいても良いのではないかとは思う。
第二に、同氏による法律行為や侵害的行政処分に対し、無効確認等、あるいは個々の手続の中で有効性を争うような手法が現実的に有り得るのではないか。端的には同氏が法廷にお出ましであれば、「検察官ではない人が検察官を騙って訴訟行為をしているから無効だ」という争い方が考えられる。
もっとも、検事長ともなれば、そうそう法廷には出てこないだろう。
とすれば、検事長の職務権限における侵害的行政処分・・全く詳しい領域ではないのだが、執行事務規程21条によれば、検事長は「刑訴法第486条第2項の規定により検事長がその管内の検察官に収容状の発付を命ずる」ということなので、さしあたり、必要的に検事長の命令が要求される場合の収容状の有効性を争うことは難しくないだろう。収容状の執行を受けた人が、この問題に気づいて弁護士に相談すれば、司法の場に持ち込むことが現実的になるのではないだろうか。

(弁護士 金岡)