大阪府を皮切りに、と承知しているが、営業自粛要請に従わないパチンコ店の業者名を公表する動きが加速している。公権力が同調圧力を利用し、尻馬に乗るという、お寒い限りの構図であるが、それはさておき、業者名公表の是非についてである。

既に公表を批判する意見が数種類、出されている。
例えば、事実上の営業禁止措置であるのに補償を伴わないという観点。あくまで「要請」だから自粛は自己責任でどうぞ、補償はしませんよ、と言いつつ、事実上の強度の圧力をかけるという遣り口は汚らしいものであるし、憲法29条の財産権保障に反するだろう。法律家としては、得心のいく議論である。

また、ある弁護士が指摘していたが、特措法45条4項は、2項の要請なり3項の措置なりを公表するとしているだけで、業者名を公表するものではないのではないかという指摘もあった。こういった切り口は弁護士ならではの鋭さを感じる。

そこで改めて条文を読むと、4項は、「特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。」とあり、「その旨を公表しなければならない」とされていることが着目される。
思うに、公表措置は、いわゆる間接強制の手段ではないと読める。要請なり指示に間接的に従わせるために、業者名を晒して圧力をかける、という方法論は別の法体系では採用されていることもあるが、そうであれば、必然の手段ではないから、文言は、「業者名を公表することができる」となるだろう。そうではなく、「公表しなければならない」という文言になっているということは、公表は特定都道府県知事側の義務だ、ということである。
なぜ公表が義務かと考えれば、要請なり指示なりが、事実上の営業禁止になることから、つまり私権の制限を伴う公権力の行使であり憲法29条に照らし疑義が生じることから、これを広く国民に監視させるべく、私権の制限を行ったという事実を公開させて、私権の制限として適切なものか監視させるための装置であると結論づけられる。

以上のように検討すると、特措法45条4項に基づく店名公表は、制度趣旨を履き違えたものであって違法であるし、少なくとも、特定都道府県知事側は、公表を、営業「自粛」に追い込むための手段として用いていることが明らかである(現に報道によれば、公表後、「自粛」に転じた業者が複数いる模様である)から、権利濫用に他ならない。

同調圧力に屈して、「自粛しないパチンコ店を晒せ」とやっていると、明日は我が身、いつのまにか公権力主導で「同調しなければ晒す」世の中が到来するだろうことを、認識しておくべきだ。

(弁護士 金岡)