以下、公判廷での出来事を簡単に記述する。
解錠時期問題に取り組む方々の参考になると思う。

半田支部の件もそうだが、やはり未だ「配慮」という認識にある以上、当日いきなりよりは、事前に申し入れておくことが望ましい。
本件は、「前半」の記述からも明らかだろうが、事前の申し入れ(具体的には公判1週間前)を経ている。当日いきなりだと「備えが無い」という言い訳を許しかねない。その意味でも、事前に申し入れるべきである。

当日、法廷に入ると、明らかに裁判所職員が法廷内外を徘徊していた。目算でざっと、6名くらいは職員が配置されていた。
どのように危険人物視されていたのかは知らないが、職員を6名、配置する余裕があるなら、衝立を運ばせるとか、傍聴人の出入りの交通整理要員として活用すればよかったのに、と思う。警備警戒には動員できるが、被告人を晒し者にしないためには動員できないという、徹頭徹尾、今回の被告人を晒し者にしないように工夫する、という発想とは真逆に行動されていたのは残念である。

開廷に先立ち(厳密に言うと、いつ開廷したのかは分からない)、西脇裁判官に再考を促したが、見解を変えないとのことであった。
そこで、「広げない禁止命令」を出すように求めると、「現に広げようとするまで禁止命令は出さない」と。こちらはこちらで、被告人が入廷するまで広げる必要は無いが、入廷されると晒し者になるので入廷させる直前に広げることになる。しかし西脇裁判官は、広げるなら入廷させない、という良く分からない鍔迫り合いに陥った。
話が進まないので、「入廷させかけて頂き、そこで広げようとするから、禁止命令を出すなら出すように」と要望し、そのように進んだ。書記官も困惑気味で、「見えないところまでゆっくり入って貰いましょうか」と。こんなところで頭を悩ますくらいなら、晒し者にしない工夫をした方がよっぽどましだと思う。
ともあれ、被告人にゆっくり入りかけて貰い(押送職員も、この珍妙な寸劇にしっかりと付き合っていた)、申し合わせ通りに広げようとし、案の定、禁止命令が出た。

さて、禁止命令に対しては異議申立が可能であろうが、まずは禁止命令の根拠を確認する必要がある。釈明を求めると「訴訟指揮権です」と。
法廷警察権では無く訴訟指揮権?と思いながら根拠法条の説明を求めると「そこまでは」と仰る。
不利益処分に告知聴聞が必要なのは憲法の基本でしょうが、と切り返し、「刑訴法288条ですか、裁判所法71条ですか」と問うと、きょとんとされて、「何条ですか?」と。
まさか自分に対する禁止命令の根拠法条を自分で考える羽目になるとは・・と唖然としつつも、刑訴法288条と裁判所法71条を繰り返し指摘すると、1分ほど六法と首っ引きになった西脇裁判官は、「訴訟指揮と裁判所法71条です」と。
そこで、行動制限にかかる訴訟指揮権の根拠法条は刑訴295条かそれ以外か、なんなのか、と聞き返すと、またも六法と格闘した挙げ句、結局、「裁判所法71条だけ」となった。
苟も弁護人に禁止命令を出すのに、条文さえ下調べしないというのは底が浅いと思わざるを得なかった。

裁判所法71条なら、訴訟指揮というよりは法廷警察権だろうと思うが、まあ、訴訟指揮権という言葉も消えたので、裁判所法71条に基づく措置への異議を申し立てた。
解錠時に裁判官監視の下で傍聴人との視線を遮る限度の行為が、「法廷における裁判所の職務の執行を妨げ」るものとは言えないだろうし、被告人を晒し者にしないように、つまり被告人の憲法13条に由来する人格の尊厳を守る弁護人の行為は正当行為であって「不当な行状」ではない、と、論じたが、異議は棄却された。
なお、検察官は異議に理由がないと述べた。検察官の執行した勾留により、被告人が晒し者にされようという時、公益の代表者としても、「晒し者にすることは勾留制度の本旨に沿わない」くらい、言うべきだと思うにつけ、こちらも残念である。まあ、異議には理由がありますと述べる検察官は、ついぞ見たことがないので、反対するのが商売だと思っているに相違ないのだが。

異議を棄却されたので忌避を申し立てた。
忌避を申し立て終えた段階で、予定された審理時間30分を使い切った(16時開廷の予定が前件が遅れたため16時10分開廷となり、忌避を申し立て終えた時点で16時40分になっていた)。
余談だが、忌避申立の際には、遅延目的では無く簡易却下は出来ないこと、従って、違う裁判体に判断を委ねるべきであることに言及することにしている。とある昔気質の裁判官の随筆で、要旨「自分の訴訟指揮に自信があるからこそ、簡易却下はせず、忌避に対しては違う裁判体に判断を委ねることにしていた」という下りがあり、なるほどと感じ入ったからだ。
さて、西脇裁判官が忌避をどう処理するのか、簡易却下するのか、と見守っていると、どうやら16時30分から別件の公判のお勤めがあったらしく、判断はせず、期日も追って指定で早々と退廷された。

従って、本欄執筆現在、忌避申立の結論が出ておらず、従って、被告人はまだ晒し者にされていない。首の皮一枚のところで(空転どころか追って指定のおまけ付きの迅速な裁判を受ける権利を犠牲にして)、まだ人格の尊厳は守られていると言えよう。

(弁護士 金岡)