分かる人には分かるだろうという前提で書いているのだが、とある有志らが作成した指南書に、「仮に取調べ立会いが認められ、被疑者・被告人が弁護人の立会いを求めているにもかかわらず、弁護人の都合がつかず、あるいは弁護人が必要性を認めずに立ち会わなかった場合」懲戒処分の対象とされるのかという議論が取り上げられていた。

同書の結論は「被疑者の要請に対応しなかったことに相応の客観的・合理的な理由が認められる場合は、懲戒処分の対象とされることはない」というものである。
「相応の客観的・合理的な理由」の当てはめ次第ではあるのだが、「弁護人が必要性を認めずに立ち会わなかった場合」でも、それが「相応の客観的・合理的な理由」に該当する場合があるという趣旨に読め、随分と手ぬるい議論をしていると感じた。

一体、「その取調べには立ち会わないで大丈夫」ということが事前に分かっている場合、などというのはあるのだろうか。何をされるか分からない、というと語弊があるが、もう少し洗練された言い方をするなら、取調べ立会の意義は、違法不当な取調べを抑止する効果や、即時に適宜の助言等の実効的弁護が提供できる点に求められるのであり、それはまさしくその場に居合わせなければなし得ないことである。
被疑者が立会いを要望している前提で、「今回は要らないよね」などという無責任な対応を認めるようでは、弁護士側の取調べ立会に対する本気度を問われかねないのではないかと思う。
強いて言えば、鉄壁の取調べ対策ができており、被疑者も「来なくて大丈夫」と言っている場合であれば、話が違ってくる可能性はある(とはいえ、そこで何かが起これば後の祭りであり、そう簡単に割り切れるものではない)。しかし前記設定は、被疑者が要望している場合にこれを拒絶する想定であるから、そうではない。

なんでもかんでも懲戒事由に繋げるという議論はよろしくないが、かといって、ここまで手ぬるい理解を示したならば、折角の指南書が台無しである。

(弁護士 金岡)