嘗て本欄では、統計的数字から「上訴保釈が半減か!?」という指摘をした(2025年3月7日付け)。他方で、他の地域の声を聞くに「ここ数年の名古屋高裁に特有の現象」かもしれないとの意見も付した。誰とは言わないが、かの杉山コートがひどすぎたことは衆目の一致するところであったろうと思われるからだ。
さて、先日、名古屋高裁刑事1部(山田コート)で保釈却下された上告保釈事案を、お隣、刑事2部(松田コート)が異議審で逆転許可した事案に遭遇した(名古屋高裁2025年5月16日付け)。
その内容が、近時の名古屋高裁を経験してきた身には驚くほど「まともな」ものであったため、本欄で紹介する次第である。
事案は本欄でも何度か取り上げている事案である。
A事件で保釈(500万円)→B事件が発生して逮捕勾留起訴→B事件で保釈(+700万円)→A事件は無罪確定したがB事件で実刑(懲役3年6月)→B事件で控訴保釈(A事件が無罪なのにお値段据え置き1200万円)→B事件で控訴棄却→係属部である高裁刑事1部が却下→高裁刑事2部が異議認容(1300万円)。
ざっと書くとこういう経過である。要するに被告人は、(A事件中に別罪B事件を起こした点は芳しからぬ事であるが)A事件保釈以降、保釈条件違反もなく真面目に控訴審の実刑判決を受けるところまで進んでいた。約2年のうちの相当部分を保釈されていた被告人が、今更、第1審に続き控訴審でも実刑判決を受けた「だけ」で、どうしても収容せざるを得ない(比例原則)などというのは、常識感覚でおかしいと思えるだろう。(論点①)
ついでに被告人は、とある病変で専門医からCTによる画像フォローを指示されていたのだが、なんと名古屋拘置所は、「レントゲンで異常なしと判断」し、保釈に反対する検察官の意見に与して「CTが必要になったら対応します」という電聴作成に応じた。
専門医が病変を指摘したのに一介の拘置所がこれを否定し、(CTを撮ろうとしないのだからそれ以上に病変に気づきようもないのに)「CTが必要になったら対応します」という空手形を切って保釈を妨害しにかかるという。
本欄では近時、数回は取り上げたと思うが、(名古屋)拘置所の医療体制の貧困と、にもかかわらずムキになって収容の安全性を無理矢理に主張してくる姿勢はおそろしい。刑事施設で何名が命を落としたと思っているのか?正気を疑う。(論点②)
さて。本題である。
以上のような異議理由(本当に上記のことを指摘するしかなかったので、私にしては珍しく、異議申立理由より本欄の方が長文であるくらい、端的な申立書を作成した)に対し、名古屋高裁は次の通り説示し、結論として「本件は、被告人の逃亡防止を担保するため、保証企額を相応に高額に定め、一定の条件を付した上で、裁量による保釈を許可するのが相当な事案であると認められる」と判断し、原決定を取り消した。
(論点①について)
被告人が、第2次保釈時に保釈条件を遵守し、控訴審の判決公判にも出頭したことからすれば、被告人の逃亡のおそれの程度は、必ずしも高くないと考えられる。
(論点②について)
(専門医がCTによる画像フォローの必要性を指摘したことに対し)名古屋拘置所は 「(収容後に同所が実施した)レントゲン検査では、特に異常やそれを疑わせるところは認められず、CT検査の必要はない」旨の意見を述べるだけで、同内科医の専門的知見を否定するに足りる合理的な理由を示していない。
なんというか、驚くほど「まとも」である。
まさにこういうしかない事案を、そのように判断した。
それに尽きる。
(弁護士 金岡)