不利益処分が予定され聴聞告知のあった行政事件を受任した。
この手の事案の初動は、当然、記録原本の閲覧である。
行手法18条1項が「不利益処分の原因となる事実を証する資料」の原則的閲覧権を保障しており、行政側がこれを拒絶できるのは「第三者の利益を害するおそれがあるときその他正当な理由がある」場合に限られる。

さて、名古屋市長から「不利益処分の原因となった事実を証明する資料全て」の閲覧許可を受けて閲覧に赴くと・・・「写しを用意しておきました」と書類の束を目の前に置かれる。いや、原本を見に来たんだがと突き返すと、5分もせずして「これです」と持って来られた瓜二つの書類束。あちこちにマスキングがある。マスキングはおかしいだろうと指摘すると「名古屋市はこういうやり方です」と。
「全て」の閲覧許可が出ているのだから「全て」を見せろと、第2の書類束も突き返す。ここまでで開始20分が経過している。

更に待たされること15分(当然ながら国賠も有り得る展開である。精細な記録は怠れない。)。
「全て」の閲覧許可は、「見せられる限りの全部」という意味なので、マスキング部分があることを含む趣旨であったが、言葉足らずで伝わらなかったという釈明である。政治家の言う「誤解を与えた」の類いであろう。取り合うまでもない戯言である。
じゃあ全部許可処分をやり直す必要があるのではないか、と問うと、そうする、ということで、結局40分を無駄にしただけで終わった。

しかし、法律上、原則全部閲覧であり、部分不許可に出来るのは例外であること、従ってそれは不利益処分であるから別途の行政処分が必要になる、という論理は、それほど難しいだろうか?
これまで行手法に基づく閲覧案件は数え切れないぐらいあっただろうに、私が「全て」とマスキングの不整合を指摘した初めての人物だとは到底、思われないが、いずれにしても膨大な数の手続の瑕疵(不当な閲覧権侵害)が眠っていると言うことだろうか。

行手法一つ守れない自治体が仮にも法治国家に存在して良いのだろうか。
それが押しも押されもせぬ大都市、名古屋市である。
笑えない事態である。

(弁護士 金岡)