【1】
先日、本欄2025年5月7日において、原審弁護人が私選であることを殊更にあげつらって「やむを得ない事由」を争う(名古屋)高検検察官の応訴態度を紹介した。
刑事控訴審を経験すれば、ざらに(というかほぼ一律に)経験することだが、とにかく、新しい訴訟活動はなにもさせないことを第一の使命にして、ひたすら「不必要」「やむを得ない事由がない」を繰り返すのが標準的高検検察官である。
第1審であれば間違いなく開示される程度の証拠開示すら基本的に無視される。
このような仕事ぶりを見ていて思うのは、間違っても被告人に不利益な誤判を生じさせないという姿勢がないということである。
それどころか、控訴審は原審を追認するのが仕事だと言わんばかりである。
こういう現実は、もっと知られてよいだろう。
三審制というからには、仮に地裁で至らざるところがあっても高裁で挽回の機会が与えられるはずであるが、その現実は、新しいことはさせない、原審を追認しなければ事後審の性質に反する、みたいな逆風である。
【2】
さて、折角なので現場の現実を追加して紹介しておこうと思う。
事案は、被告人が被害者に暴行を加えたかどうかが争点であり、被害者証言に加え目撃証人2名の尋問が実施され有罪判決になった控訴審である。
私が控訴審を受任して証拠開示請求を梃入れした結果、なんと、被害者が事件直後に事件現場で被害再現していた写真(それは原判決の認定した目撃証言に基づく暴行態様とは全く異なる)が不開示であったことが判明した。原審弁護人は、きちんと被害者の全供述録取書等の開示を請求していた。高検検察官は、未送致記録だったので仕方がないと主張しているが、被害者の事件直後の被害再現が未送致というのは、俄に信じがたい。
当然、証拠開示義務違反(非整理手続事案ではある)を控訴理由に掲げているが、これに対する検察官答弁は次のとおりである。
「何れも、いわゆる任意による証拠開示であり、検察官が証拠を開示する義務を負っているものではない」
【3】
現実はこうである。
周知のとおり、検察官は付整理手続には反対することが常であり、その際は、任意開示で対応できるから整理手続に付さなくても防御上の支障はないと主張される。
しかし、かようにして非整理手続で進行し、証拠の不開示が発覚するや、これは義務ではないから違法にはならないと強弁してくる。
裁判所は、「きちんと証拠開示がされるのだから整理手続は不要になる筈」という思い込みは捨てるべきである。
少なくとも弁護人が法定証拠開示請求権の獲得を主張した時に、これを容れない訴訟指揮をしようものなら、不開示が発覚した時、検察官の証拠隠しを咎め立てすることが可能かどうかの議論に陥りかねず、そのことは被告人の防御権に照らし望ましくない。
より言えば、「通常手続でも同水準の証拠開示を行う」というのが検察庁の建前なら、最早、通常手続にも整理手続と同様の法定証拠開示請求権を付与するのが早いだろう。同水準の証拠開示を保証するという検察の姿勢が建前でないなら、検察がこれに反対することはあり得ないはずだ。
地裁段階で整理手続に反対され、立ち消えになり、結果的に証拠開示が不十分だったことが控訴審で判明する事案はかなり多い。早急に改善すべき点だろう。
ちなみに、上記事案において、控訴審を受任して4ヶ月、開示を求め続けた「写真の原データ」について、検察側から当該写真を証拠請求することとなり、漸く開示されることになったが、「データの開示はどうやって行うのか」という問い合わせが此方に来た。
高検検察官がデータ開示を未経験、という一事を以て、最早、病的である。
(弁護士 金岡)