刑法雑誌第64巻第2号所収の掲記論文を読んだ。
因みに本号には、「量刑の基礎理論」や「学際的分析に基づく黙秘権の保障根拠論」、「患者の仮定的同意とインフォームド・コンセント」など表題から食指の動く論説が複数あり、いつもながら読み応えがありそうである。
さて本題であるが、「刑事弁護における秘密の保護」としては、秘密交通権や押収拒絶権があり、秘密交通権については、現在、接見機会の保障の問題から接見内容の秘密の保障の問題に中心的話題が移っていること、判例上、憲法34条に由来する刑訴法39条1項の問題として展開されていることは、まあ理解しているけれども、それ以上に学際的な検討は(日々、刑事弁護の生命線として振り回している割には)自分の中で行えておらず、今回この論文に惹かれたのも、この際きちんと勉強しなければと思ったからである。
本論文は、「刑事弁護における秘密の保護」を、アメリカ法及びドイツ法を参照し、更に日本国憲法との関係では憲法37条3項、憲法34条前段のそれぞれの趣旨を検討した上で保護の在り方を論じている。
特徴的なところとしては、国家が接見の秘密に容喙し得ることそれ自体が接見の萎縮を招くことから予防的に秘密性の一律保障を打ち出しているところにあり、そのような制度的な保障から、例えば被疑者被告人が所持している接見内容に関わる資料の差し押さえも絶対的に禁止されるべきだと論じられているところである。
ここでは当然、被疑者被告人の自立的な秘密交通の放棄も許されないこととなり、先例である福岡高判2011年7月1日(上告棄却により確定しているらしい)が「捜査機関は,被疑者等が弁護人等との接見内容の供述を始めた場合に,漫然と接見内容の供述を聞き続けたり,さらに関連する接見内容について質問したりすることは,刑訴法39条1項の趣旨を損なうおそれがあるから,原則としてさし控えるべきであって,弁護人との接見内容については話す必要がないことを告知するなどして,被疑者等と弁護人等との秘密交通権に配慮すべき法的義務を負っているものと解するのが相当」としていることとも整合的である。
何かしらの価値を実現するための制度であるから、このように固い理解をすることが馴染む。なかなか共感出来、今後に活かせそうな論文であった。
(弁護士 金岡)