私が愛知県弁護士会の刑事弁護委員会に在籍していた当時、企画して出版に漕ぎ着けた「勾留準抗告99」は、2016年当時までの勾留準抗告事例99件を収録して一定の観点から分析を加えたものであるが、かれこれ10年近くが経過している。その間、判例法理や裁判例の動向に著変があったわけではないとしても、流石に古びては来ているだろう・・というところに、「第2版」を出すという話を刑弁委員会の方でしている、とは聞いていた(私は刑事弁護委員会に在籍していないので直接的な関与はない)。

趣向を同じくして事例を集め直すなら、「第2版」というのはおかしいのではないか、と思っていたのだが、この程、完成本を頂戴して、なるほど「第2版」というところに得心がいった。
即ち、対象事例こそ新規に160件を集めて分析を加えてはいるものの、分析の観点については全て「勾留準抗告99」を踏襲している(これは少々、残念であり、新規事例が160もあり、執筆陣も半ば一新されたからには、新しい角度からの検討の一つや二つ、出来たのではないかと思わなくもない)。更に、随所に挟んだコラムも、大部分が使い回しである(3つほど書き下ろしがある)。
つまるところ、旧事例99を新規事例160に差し替え、分析の具体的箇所において置き換えた以外は、「勾留準抗告99」を基本的にそのまま踏襲しているので、「第2版」ということになるのだろう。
まあ、一から作り直すのが良いか、枠を踏襲しつつ事例を更新していくのが良いかは、一概に言えないので、こういう手法もありだろうが、新鮮味というか面白さに欠ける点は否めない。

従って、特に読後感と言うほどのこともないのだが、書き下ろしのコラムは、特定在宅被疑者援助制度の活用が釈放に繋がったもの、被疑者調べ未了を明示的に延長事由から排除する議論など、時流に則った話題があるので、一読の価値はある。
もう一つ、(やはり裁判員対象罪名ほどになると事例自体が見当たらない~現住放火1件、準強制性交1件、いずれも釈放されず、が目を引く程度~のは今後の課題である、)薬物事犯でも大麻は覚醒剤と異なり十分釈放が見込めるという傾向性が、よりはっきり現れている点も興味深く読んだ。大麻と覚醒剤とで(どうせ初犯で執行猶予事案という場合は特に)何が違うのかは皆目見当も付かない。

奥書によると本年9月25日発行である。

(弁護士 金岡)