これは検察官側も「ためにする議論」を承知でやっているのではないかと思われるが、刑事弁護人の能力が不足していると、そういうものかと諦めて食い下がることをしなくなるかも知れず、共有されておくべき害悪だと思われる。
ということで紹介する次第である。

先日来、取り上げている、痴漢事件の否認事件で、原審弁護人が検察官請求証拠の開示を受ける以上の証拠開示を求めず尋問に突き進んでしまった案件である。

控訴審で検察官が証拠開示請求にゼロ回答だったので、当然、証拠開示命令を申し立てた。本欄ではお馴染みであるが、非整理手続事案の証拠開示命令について「整備された証拠開示制度の趣旨に沿った運用が求められると解される」とする逐条実務刑訴が強力な足がかりとなる。

これに対する検察官の反対意見は、第一に、「(弁護人が控訴審で開示を求める証拠は)捜査段階において収集されたことを前提とするものであって、第一審の弁論終結前に取調べを請求することができなかった証拠に該当するとは言えない」というものである。
⇒ 開示されてもいない証拠が、原審で請求可能だと言われても困る。

第二に、「あたかも本件が新たに公判前整理手続に付されたかのごとき前提に立って・・・第一審で行われた審理を根底から蒸し返すもの」という反論が出されている。
⇒ 整理手続に付されたかどうかで防御水準が変わるのはおかしい、ということが未だに受け入れられない時代錯誤ぶりである。

第三に、「検察官において・・各証拠(註:いずれも検号証)を原審弁護人に開示しており、・・十分な攻撃防御が尽くされていたと言え、原審弁護人において、本件を公判前整理手続に付した上で法定の証拠開示請求を行わず、また、任意の証拠開示請求も行わない選択をしたことが、弁護方針の裁量を著しく逸脱する不当な弁護活動であったと評価することはできない」という反論。
⇒ 何を食べていると、こんな無茶苦茶な主張ができるのか、神経を疑う。
有罪立証できると検察官が判断した証拠=最も不利益に編集されているだろうものだけ開示を受けて尋問に進むことは役割放棄であり、裁量逸脱ではないことなどあり得ない。幾ら、検察官の立場から反対意見を出す役割を果たす必要があるにしても、これは最早、言っては駄目な領域だろう。
検察官は、もし自分が冤罪で起訴されたとして、一切の証拠開示を求めない弁護人で満足するのだろうか?と聞いてみたい。

とまあ、低水準この上ないことである。
本欄を閲読する層は刑事弁護に意識が高い関係者が多いはずだが、これからしっかりやっていきたい層も居るだろう。検察官の度を過ぎた意見に惑わされるようなことのないよう、弾劾活動の基本原理、実践手順を身につけていかなければならない。

因みに本件は、現在、まさに動いているところなので詳述は控えるが、弁護人の提案を踏まえ進行協議が開かれ、検察官は「証拠開示は常に柔軟に対応している」と主張。結局、裁判所が間に入り、検察官において証拠開示対応を再検討することで進んでいる。

裁判所が進行協議を設定しなければ、ゼロ回答で頬被り必至だったのだから、「常に柔軟」とは良く言えたものだと思う。
再審制度の議論もそうだが、検察官が被告人の防御権より裁判所の顔色を窺うだけの存在である限り、こういう欺瞞的な遣り取りによる無駄な労力、訴訟遅延、防御権侵害の危殆が避けられない。これから否応なく刑訴にも電子化の波が押し寄せ、検察庁は事件記録PDFを一つのフォルダに格納する時代が来るだろう。それを機に、事件記録フォルダを弁護人にも共有出来るようにしてしまえば良い。

(弁護士 金岡)