掲記の神戸地判(2026年8月31日判決、坂口裕俊裁判官)を取り上げる。
報道もされているが、一言で言えば、件名の通りコカインの意図的摂取を認定せず無罪とした事案である。担当弁護人の御厚意により判決書を見せて頂くことが出来、また、確定したので本稿の掲載許可も頂くことが出来た。
以下、判決書に忠実に事例を紹介し(判決外情報はその旨を注記する)、論評を加えるが、予め断ると、決して好意的な評価にはならない。判決理由が非科学的で、危険な代物だというのが私の評価になる。今回は偶々、その非科学性が無罪方向に振れたが、当然、真逆に振れることも有り得るので、好意的にはなりようもないのである。
まず事実関係である。
元被告人Aは12月6日午後7時30分ころ、Hら(Hは、同日昼頃に出所し、他4名と一緒にいた)と合流し、合計6名で1台の自動車で移動を開始した。移動中、Hはコカインを購入したいと言い出し、同行者Iが売人と連絡をつけてコカインを購入した。その後の午後11時21分ころ、Aはコンビニでペットボトル飲料を購入し、同25分ころ、Iが飲みたがったのでIにペットボトルを回し飲みさせた。その後、職務質問に至った。
大まかに言えばこんなところである。
補足すると、
・AがIにペットボトルを回し飲みさせたところは防カメ映像がある(Iが飲み口に口を付けないように飲んだようにも見えるがそうでないかもしれない)、Hとの回し飲み画像自体は存在しない、
・Iは職務質問時に逃走したため唯一、尿鑑定がないが、その他の全員から、翌日の尿鑑定によりコカインが検出されている、
・Hの尿中コカイン成分濃度は他の全員より高濃度であった(但し、この事実認定については後述の通り問題がある)、
・Hはコカイン常用者で、別機会であるが歯茎に塗って使用するところを目撃されている、
といった事実関係がある。
以上のような事実関係下に、Aは、Hにもペットボトル飲料を回し飲みさせた、Hの歯茎に付着していたコカイン成分がペットボトル(ないしペットボトル内の飲料)に移り、Aが意図せず摂取するところとなった、また、Iもコカインを使用していた疑いがあり、そのI側コカイン成分が同様にAに移った可能性がある、等と主張していた。
以上の争点に対し、判決は次のように判示した。
① 事実認定の問題として、HやIのコカイン経口摂取疑い、それが何れも回し飲みによりA側に移る可能性は否定できない。
② Aの尿鑑定によれば、コカインや代謝物は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GCと略記する)では検出されず、液体クロマトグラフィー質量分析(LCと略記する)でしか検出されなかったから、「摂取したコカイン量は・・比較的少ないものであったと認められる」。
③ Hの尿からもコカインが検出されているが、その「客観的な濃度は不明であるものの、被告人の尿との比較では、およそ7倍程度の濃度であった」。
④ 覚醒剤に関し、その検出限界を摂取量にして2㎎とする文献があるが(井上QA)、可能性で言えば0.3㎎でも検出できる余地がある(兵庫科捜研の永見信正証言)。その後の機器の精度向上に伴い兵庫科捜研ではコカイン摂取量0.1㎎でも検出可能というのだから(前掲永見)、回し飲みによる付着とみても矛盾はない。
要するに、①の回し飲み事実の認定を前提に、その場合、Aの摂取量は「正規の使用」より相当に少量になるだろうが、②③④の検討により、Aの摂取量は相当に少ないと見て矛盾はないので、回し飲み事実を覆すに至らない、という論理立てである。
以上の論理立ては、よく用いられる手法であり、それ自体に異論はない。それなりに合理的な、意図的でない摂取可能性が提示されたなら、それを覆すのは検察官の責任で行われなければならず、その場合、往々にして、摂取量が少量にとどまるかどうかが争点化するのは道理である。
問題は、②~④の科学的考察が科学的であるか、という点である。
私がこの点について、現在の裁判実務に批判的であるのは本欄過去記事(本年8月18日及び8月20日など)の通りであるが、次回、この点を検討してみたい。
なお、担当弁護人によれば、当該ペットボトルは未発見で、そこからHやIのDNAが検出されたかとか、飲料にコカイン成分が混入していたか等は、確認できないとのことである。
(2/3に続く)
(弁護士 金岡)

















