入国管理局は、在留資格を求めて行政手続を履践している被収容者に対し、時に、提訴の余裕を与えず強制送還する手口を用いる(在留資格を認めない行政の判断を、送還前日の夜に示す。勿論、送還先との調整や、航空会社との折衝など、随分と前からそうすることは決まっており、もっと前に伝えることは可能である。しかしそれでも、行政の判断は、敢えて送還前日の夜に示される。そうすることで、弁護士との相談を絶つことが出来るからである。)。このようにして国外退去されると、判例上、取消訴訟の訴えの利益が失われるとされているため(理解に苦しむ)、不利益処分を科した当局の判断で、不利益処分を争う裁判を受ける権利が完全に奪われることになる。
このような手口の是非が問われた名古屋地裁判決(2019年7月30日)は、なんと裁判を受ける権利を侵害していないと判断した(全く理解に苦しむ)のであるが、2021年1月13日、控訴審である名古屋高判は、正面から裁判を受ける権利侵害を認めた。

弁護団から判決を頂いたが、曰く、「難民不認定処分に対する異議申立棄却決定がされた被退去強制者が事前に同処分に対する取消訴訟等の意向を示していた場合であっても、憲法上、入管職員において、上記の被退去強制者について、集団送還の対象者に選定することが許容されないとはいえず」としたものの、「集団送還の対象者に選定された場合には、事前に異議申立棄却決定の告知が行われず、同告知後は第三者と連絡を取ることを認めない運用により、同告知後に難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起することが事実上不可能となるため、この点に関する入管職員の一連の行為が、同処分に対する不服申立てについて自由選択主義を採用している入管法等や行政処分に対し司法審査を受ける機会を保障しようとしている行政事件訴訟法等との関係で国賠法1条1項の適用上違法であるかが問題となる。」とした上で、検討を重ね、「以上からすれば、難民不認定処分に対する異議申立てをした被退去強制者は、異議申立てを濫用的に行っている場合は格別、異議申立棄却決定後に取消訴訟等を提起することにより、難民該当性に関する司法審査の機会を実質的に奪われないことについて法律上保護された利益を有すると解するのが相当であり、このように解することが、憲法の定める裁判を受ける権利及び適正手続の保障や各種人権条約の規定(自由権規約 2条3項,14条1項,難民条約16条)に適合するものというべきである。実質的にも、このように解さなければ、集団送還の対象者を選定するのは入管当局であるところ、被退去強制者が別途難民不認定処分に対する取消訴訟等を提起するなどしていない限り、入管当局の判断によって異議申立棄却決定後に取消訴訟等の意向を有する被退去強制者の難民該当性に関する司法審査の機会の有無が決定されることとなる・・・」とした(名古屋高裁民事第2部、萩本修裁判長)。

退去強制処分に人権条約は関係ないと断じた、どこぞの名古屋高判と異なり、人権条約にも目配りした、真っ当な内容であると思われる。というよりも、これほどに分かりやすい裁判を受ける権利侵害もそうそうないと思われるが、当たり前のことを当たり前に判断させることはとても大変なことだ(大阪の弁護士らが結成した弁護団の御努力には本当に頭が下がる思いである)。

私は、縁あって、この事件の強制送還時のビデオの証拠保全、更に別件(こちらはコロナ禍もあり、まだ国賠未提訴である)の強制送還時のビデオの証拠保全に関わったが、本当に嫌な光景である。文字通り、早朝、寝込みを数名の職員が襲いかかり、無理矢理連行するビデオである。裁判を起こす予定であったのに、外部との連絡を絶たれたまま、着の身着のままで「犯罪者のごとく」(好ましくないが修辞的表現である)扱われ、両脇を職員に挟まれて護送され、飛行機に搭乗させられていく。こういうことが苟も人権を標榜する国家に現実にあって良いのか、と思わされるビデオであるが・・それでも国を断罪できない裁判官がいる(寧ろ国賠が認容されれば「よくぞ言ってくれた」と言わなければならない)という、それもまた現実なのである。

(弁護士 金岡)