ウェブ日本評論の連載をまとめた書籍として昨年発刊されていたことを、不明にして先日、知った。たまたま地元の図書館の一般書架で見つけたのだが、こういう本は御家庭に一冊、ついでに裁判官室にも一冊、備え付けておくのが良いだろう。

氏の書籍は、「刑事裁判の心」(私が弁護士になって初めて書いた書評~当時の所属事務所のHPに掲載するため~が、この本だったことは今でも覚えている)をはじめ、大体、読んでいると思うし、異彩を放つ調査官解説の数々(同時代の調査官解説を集めて「目隠し試験」をしても先ず外さないくらい論調が違う)(勿論、中には同調しがたい残念なものも含まれてはおり、記憶では、不法滞在外国人に外国人登録申請義務を科した最高裁昭和57年3月30日の調査官解説には、がっかりさせられた覚えである)も基本的に面白く、外れがない。

ウェブ連載の書籍である以上、今更、内容的な紹介をしても始まらないが、本書、「まとめに代えて」では、数々の冤罪事例を通じて原因分析されたところとして、違法捜査の実態、弁護人の責任、裁判所の責任を挙げているので、そこだけ取り上げておこう。

違法捜査の実態としては、
・平然と証拠の隠匿廃棄が行われること
・アリバイ潰し
・権力に追従する、えせ科学者
が挙げられてる。現在も日常的に行われているので、至極ごもっともである。

弁護人の責任としては、
・ろくに接見しない、あるいは否認主張をはねつけること
が挙げられている。これまた残念ながら、現代的課題である。
そういえばつい昨年、引き受けた事案も、被疑者国選弁護人が「否認を維持するなら私選を探してほしい」として、保釈もせずに放り投げた事案であった。昭和だろうと令和だろうと、冤罪原因弁護人は浜の真砂ほどに無くならない。

最後に、裁判所の責任としては、なんと10項目に亘る。
ほぼ全事件に共通とされているのは、
・自白(共犯者自白を含む)の盲信、
・違法捜査を指摘しない、拷問を認めない姿勢、
の2つであった。
この2つに当てはまらない裁判官がどれほどいるのか、たとえば名古屋地裁本庁を思い浮かべてどうだろうかと思うと、なるほど冤罪がなくならないわけであると、得心せざるを得ない。

(弁護士 金岡)