とある裁定事件の抗告審裁判所の判断を見て、つくづく思うことである。
この事件はやや特殊で、検察官が「類型証拠開示請求が不適法」と言い張るために裁定に発展したという経過がある。従って、裁定請求事件における検察官意見も「類型証拠開示請求が不適法なのだから裁定請求も不適法」の一点張りであった。
これに対し原審裁判所は、検察官に対し、開示請求にかかる証拠の目録の提示命令を発出した。

弁護人が手続関与できたのはここまでであった。
検察官が提示命令に対し、「裁定請求自体が不適法だ」と言いながら「開示請求にかかる証拠は存在しない」と臆面も無く主張したことは、原決定後に初めて知った。
更に、原決定が、決定2日前、検察官に対し、開示請求にかかる証拠に関する捜査状況の釈明を求めたこと、決定1日前に検察官が、臆面も無くこれに回答したことも、原決定後に初めて知った。
結局、原決定は、検察官の不存在の主張を容れて請求を棄却した(名古屋地裁刑事第5部合議係)。

このような審理過程が許しがたいことは言うまでも無いだろう。
突然浮上した不存在の主張について、反論機会どころか、知ることもなく、認容されては、裁判の名に耐える代物ではない。
金銭貸借事実のみが争点の事案で、判決直前、裁判官が被告に電話をかけて弁済の有無を確認し、資料を出すよう促し、それに基づき弁済の抗弁を認定するようなもので、裁判を運営する資質を全面的に疑わざるを得ない。

このような体たらくの原審に対し、抗告審は次のように述べた(名古屋高裁刑事第2部)。
「いかなる審理を行うかについてはその合理的裁量に委ねられているとはいえ、原裁判所としては、弁護人に対する不意打ちにならないよう、そのような機会(※不存在の主張に対する弁護人としての何らかの対応)を与えるよう配慮することが望ましく、弁護人に知らせなかった措置は違法とまではいえないものの適切さを欠くものというべき・・」

抗告審決定は、原裁判所の事実調べをそれなりに補充してから結論を出しているし、どのような事実調べをするかについては弁護人に意見を述べる機会を与えた(但し、事実調べの結果は要旨を口頭で告知しただけで検察提出資料を閲覧させることを頑なに拒んだことから、結局、具体的な反論機会はないままに終わっている)。
その意味では、原裁判所と異なり、まだましではあるが、そうであるなら「違法とまではいえない」はないだろう、と思う。こういうところできちんと「違法」と断じないのは、身内庇いの甘やかしと言われても仕方ない。

少なくとも、弁護士目線で、「裁判所主導で、新たな抗弁が知らないところで追加されて、それが認容されたのだけど、どう思う?」と聞いて、違法だと評価しないのは、きわめて少数以下と思われるところであり、理解しがたい残念な決定であった。

ついでに。
裁定事件の手続規定がないに等しいのが、係属裁判所に「合理的裁量」による訴訟運営を許容している根源である。上記一事をもっても、「合理的」に機能しない裁判所のあり得ることは実証されてるのだから、割合的数量はともかく籤引きでそのような防御権侵害が発生するのは不合理である。手続規定を整備すべきだろう。
・主張書面は同送(直送)義務規定を置く。
・事実調べの実施については裁判所に求意見義務を課す。
・事実調べ対象については原則的に閲覧謄写(人証の場合は尋問権)を認める。
整理手続という、当事者主義が強く支配する局面において、職権調査主義にまみれた手続規定を置く理由はない。前記抗告審決定は、その点で理解が欠けている。

(弁護士 金岡)