正式名称は「ケース研究 責任能力が問題となった裁判員裁判 パート2」である。
責任能力が問題となった裁判員裁判事案の担当弁護人による報告と、それへの精神科医、弁護士の各コメントで構成される第2弾であるが、一事案にコメントをさせて頂いたので紹介する。

秋田真志弁護士(刑弁センター委員長)による端書きでは、本書が、個々の弁護士の限られた経験を補うべく編まれたことが記されている。専門法曹として安定した力量を発揮するためには、無論、経験を蓄積するに越したことはないが、他面で、何事にも初めて遭遇する事態は付き物。その際に、一から試行錯誤する不安定な弁護活動ではなく、先人の経験に学び、なおかつそれを第三者的に批評した参考意見まで参照できるとなれば、成る程、目的に合致した趣向と言える。

私がコメントしたケース4は、要約すれば、犯行機序を物語として描出した検察側本鑑定が、関係証拠と矛盾し証明力を失ったものである。しばしば、了解可能な物語に無理矢理にまとめ上げる鑑定を目にするが(7つの着眼点や8ステップ論の何れも陥りがちな陥穽である)、本件では弁護人が十分な証拠開示、独自調査を踏まえ、見事に弾劾した。典型的な誤鑑定と、あるべき証拠開示対応を巡り、広く共有されるべき経験知の一つと思う。

話は違うが、今春、収録された座談会の末席を汚した書籍も刊行予定である。
旬の話題の研究書であり、また紹介したい。

(弁護士 金岡)