報道もされている事案であるが、本欄でも紹介したい(民事第3部、森實将人裁判長)。

事案は、起訴後勾留中の被告人が、DNA資料採取のために取調室に出房させられ、DNA資料を採取されそうになったため、弁護人に相談したいとして弁護人への連絡を要望するも、容れられないまま説得が続いたというものである。

まず、弁護人への連絡要望を容れなかった点について、判決は、「接見交通権の重要性からすると、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者から、弁護人との接見が要請された場合には、捜査機関は、特段の事情がない限り、直ちに弁護人にその旨を連絡し、できるだけ早期に接見の機会を与えるべき職務上の義務を負う」とし、同義務違反の国家賠償請求を認容した。
単なる恩典とか運用と片付けるのではなく、職務上の義務として構成したことは、当たり前だが心強い見識である。主張整理を見ると、県側も、被告人が明確な接見要請を行ったものではないという争い方をしており、明確な接見要請があれば上記連絡義務が生じることは争っていなかったように見受けられる。・・どこぞの名古屋高裁は、被疑者が弁護人立ち会いを要求すると正当な理由のない取調べ拒否だという。(悪意があっての表現ではないが)その見識は県側にすら劣り、全く以て極めて救いがたい。
ちなみに、弁護人の苦情を受けた県公安委員会は接見交通権侵害を否定したとのことである。一例を以て論じるのは乱暴であるが、そんなものだろう。

次に、弁護人に連絡してもらえないままDNA試料採取をされそうになった点について、判決は、起訴された事件の内容等に照らし、DNA試料採取をすべき必要性が具体的に生じていたとは認められないこと、緊急性もなかったこと、被告人の要望にもかかわらず弁護人への連絡がされなかったこと、更に「採取に応じなければ反省していないと取られる可能性があると示唆するなど利益誘導的な言動もしている」ことを考慮し、被告人の地位にあるものに対する不相当な説得であり、人格的利益侵害があると認めた。
「未遂」の説得に対し、人格的利益侵害の構成で賠償請求を認容した、このような判断内容は珍しいのではなかろうか。

以上の二点において、紹介する価値のある判決だと思う。
尤も、起訴後被告人に対する任意のDNA試料採取の説得であるのに、当該被告人が取調室で、腰縄と手錠に連結されたパイプ椅子上で拘束状態であったことについては、「出頭・滞留について・・・拒絶の意思を示したとは認められないから、人格権の侵害があるとは認められない」としているなど、まだまだぬるいと思わせる部分もある(起訴後被告人の地位に照らせば、いつでも自由に退室できる状態を保障するのが当然であり、誰かに外してもらわないと動けない状態を「任意」と表現することは失当である)ことは、付け加えておきたい。

(弁護士 金岡)