デジタルフォレンジック業者の方と話していて教えて頂いたガイドラインである。
ウェブ上に公開されている。
https://digitalforensic.jp/home/act/products/home-act-products-df-guideline-8th/

きっかけは、「警察がすぐに解析データを消してしまう」という愚痴からだった。

刑事事件において、スマートフォン解析結果が証拠化されることは頻繁にあり、それも一昔前のような接写ではなく、機体からデータを抽出した上で行われた解析結果が証拠化されることも相当に増えた(純粋な参考人や被害者など検察側証人になるような属性の場合、データ抽出までされることは多くないが、それでも事案によっては行われている)。
しかし、その証拠化は、所詮は、抽出された丸ごと一つのスマホデータのうちで捜査機関が証拠化したいと思うものだけを解析の俎上に載せただけである(例えば、LINEデータは解析対象とされたが、ショートメールは解析対象とされていないかもしれない)上、エクセル形式で印字されて寄越されるから更に二次加工されている(LINEのトークルームのうち特定の2名の遣り取りだけを整序したものが提出されているのかもしれない)可能性も考えておかなければいけないという、二次三次の証拠に過ぎず、到底、抽出されたデータそのものには及ばない。原証拠に当たるべき弁護人の基本的職責に照らせば、解析機器が解析するために抽出したデータそのものの開示を受けることが基本となる。

ところが、抽出したデータを開示請求すると、存在しないという回答が多くを占め、これに対し、未送致に過ぎないと思われるから確認するよう要求しても、やはり存在しないと回答され、いったんは抽出されたデータがどこにいったのか説明を要求すると「消した」と、こうなる。そこから先、その真偽や手続書類といった領域に踏み込むには、もはや裁定請求くらいしか手段がない(故意過失を問わず、「存在しない」「消した」という類いの検察官の説明が時に事実に反することは常識であろう)。

とまあこのように、抽出したデータを裁判中に消してしまうことが普通にあると捜査機関は主張するんですよねーという(勿論、あってはならない話である)愚痴を業者の方にこぼした時の反応は、無論、「そんな馬鹿な」というものであって、くだんのガイドラインを御教示頂いたというわけである。
ガイドラインにおいて、抽出した=その時点全データを証拠保全した=データを消してはいけません、などという初歩的なことは記載されていないが、その後の検証可能性に備えて同一性や加工に疑義が挟まれないよう細心の注意を払って保全措置が行われていることはよく分かる。し、技術的にそれは可能である。抽出されたデータを本当に消してしまい、その後、同一性が争われたら警察官が証言台に立って「きちんとやりました」と証言する・・・原始時代の営みであろう。勿論、それを漫然と許す裁判所にも相応の責任があることは間違いなく、裁判所が検証可能性のない立証に厳しい態度を取れば捜査は劇的に変わること請け合いである。
刑事司法のIT化というなら、デジタル証拠法も整備する必要があるだろう。
デジタルフォレンジックの標準的な処理が行われていないデジタル証拠は、証拠能力を認めない扱いにする(反論可能性が保障されず、それどころか同一性すら技術的に証明できなくする原データ廃棄は、法律的関連性を否定させるに十分である)、というのが最も適切な解決策だと思われる。

ちなみに、デジカメデータ原本は、判決確定まで保存される扱いらしい(後記第3の5)(これまた、おなじみ検察官の説明とは矛盾衝突するように思うが)。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/keiji/kanshiki/kanshiki20190329-2.pdf
デジカメデータ原本を確定まで保管するのに、保全された抽出データはすぐに捨てて良いなどということは考えづらい。知らないだけで、保管準則があるのかもしれない。

(弁護士 金岡)