先日のことである。
Aが上司、Bが部下であり、事案は背任である。
Bが逮捕された当時、Aは共犯者と目され、A自身の取り調べにおいて黙秘権が告知された。結局Aは起訴されず、Bだけが起訴され、Bは保釈を請求した。

検察官はBの保釈に猛反対したが、Bの弁護人によると、その中で、Aの供述態度を論難してBの罪証隠滅を立論するくだりがあった。
曰く、Aは組織の幹部としてBに対し処罰を求めるべきであるのに、事情聴取で署名押印を拒否してBを擁護しているから、今後、AがBを擁護するべく、Bに同調するよう当該組織構成員に働き掛けをする可能性があるというのである。

Bの罪証隠滅を論じるために、Aの組織構成員への働き掛けを主張するというのも良く分からないが、それより問題なのは、「Aは組織の幹部としてBに対し処罰を求めるべきである」という論旨である。
AはBの共犯者と扱われて刑事責任を追及されていたのであるから、検察の主張を前提とすればAがBに処罰を求めるというのは自分で自分の処罰を求めるようなものである。
また、Aは被疑者扱いされて取り調べを受けていたから、当然、検察官と情報を共有できるような扱いは受けておらず、果たしてBの責任やいかに、というだけの情報を持ち合わせていない。

保釈の一件記録に、Aに対する刑事責任追及過程がどのように含まれているか次第では、裁判所は、Aが共犯者扱いされて刑事責任を追及されていたことを知らないまま、検察の主張を真に受けかねないと心配する。
保釈を妨害するために(も)なんでもありの欺瞞的な姿勢であると感じる。

(弁護士 金岡)