本欄で被疑者補償制度の活用を提言し、かつ、試みてみたものの、2件とも全く相手にされなかった経過は、本欄2022年10月14日に追記したとおりである。

更に、情報筋によれば、要旨「AB共犯で逮捕された後、Bだけが不起訴釈放となり、Aは起訴されるも、事件性が否定されて無罪となったので、Bが被疑者補償を請求した」という非常に筋の良さそうな案件でも、不支給裁定を受けた事例があるという。
事件性が否定されて無罪なら、(逮捕当時、いかに職務行為基準的に罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があったとしても、)被疑者補償は当選確実なように思われるので、上記の不支給裁定は、正しく機能不全の証であろう。

被疑者補償不支給裁定取消訴訟は、現在、裁判所が否定的である。
身柄拘束自体が違法だという国賠訴訟は、職務行為基準説が邪魔をする。
となると一つの考え方は、被疑者補償をきちんと運用しないことの国賠請求であろうか。どういう資料に基づき、どういう評価を加えて、不支給裁定を行ったのか。特に「Aの(事件性)無罪」があるのになお、Bへの被疑者補償を行わないことの正当性を国側が主張立証するのは、感覚的には相当に困難なのではないか、と思われるし、被疑者補償制度の議論が深まる好機であるようにも思われる。

(弁護士 金岡)