裁判所HPの新しい裁判例を巡回していて見つけた、最一小2023年3月7日決定のことである。
判旨は「被告人が弁護人に対し上告趣意書差出最終日前に被告人作成の上告趣意書を送付したが、弁護人が上告棄却決定後にこれを裁判所に提出したという事案につき、上告棄却決定に判断遺脱はないとされた事例」とある。
弁護人が被告人本人の上告趣意書を預かっても、上告棄却決定までに提出していないのであれば、その内容が判断遺脱に関わりようもなかろう。

これがわざわざ掲載された理由はなんなのだろうか。
一応、論点として、刑訴法366条(在監者の上訴申立における到達主義の例外規定)がどこまで準用されるかというのがあり、控訴趣意書については準用されないという裁判例があるようだ。「平成16年重判」に関連判例が掲載されており、そちらも眺めたが、上告趣意書に関しては判例がないようであり、それが意識されたのだろうか。

・・とはいえ、本件は弁護人宛に送付している事案なので、「監獄の長」に差し出したとはそもそも言えないのではなかろうか。条解にも、同条に依らず普通に提出することも可能とあるから、拘置所職員に渡すところまでは同じでも、「監獄の長」宛てと、弁護人宛て発信、ついでに最高裁宛て発信とは、明確に区別されているはずである。そうすると、上告趣意書への準用を否定する判例が形成されたとは凡そ言えなさそうである。

となると、これは、「弁護人が被告人本人の上告趣意書を預かっても、上告棄却決定までに提出していない」という弁護過誤要素も踏まえて掲載されたのかも知れない。
判決文を読むと、
11月4日  弁護人が自身の上告趣意書を提出
11月10日  被告人が上告趣意書を弁護人宛に発信
11月15日 弁護人に被告人の上告趣意書が届く
12月7日  上告趣意書差し出し期限
1月5日   上告棄却決定
1月10日  弁護人が被告人の上告趣意書を提出
という経過のようである。
11月15日に預かった上告趣意書を、12月7日までに提出しなかったどころか、上告棄却決定がされるまで提出せず、剰え棄却決定後に提出する・・うっかり取り紛れたのかも知れないが、同業者として、擁護する余地は無さそうである。

(弁護士 金岡)