報道によると、とある刑事事件について、要旨「A弁護士によると、B容疑者が逮捕された当日、C警察からA弁護士の法律事務所の留守録に『B容疑者が弁護の依頼希望』との伝言が残されており、その後、C警察から『別の弁護士に会ったので依頼を取り消す』との連絡があった。」という出来事があったという。同報道によれば、A弁護士は取材に対し「引き受けるつもりはなかった」等とも述べたとのこと。

このようなA弁護士の対応には、驚かされる。
A弁護士は、B容疑者から接見申込みを受けたことを、取材で語っているわけだが、報道記事を見る限り、A弁護士はB容疑者に接見はしていないだろう。ということは、B容疑者が、A弁護士に、接見申込みの秘密を第三者に開示して良いとの同意を与えているとは認められず、A弁護士はB容疑者の同意無しに秘密を開示してしまっている。

一般に、弁護士と依頼者の通信の秘密は強度に保障されなければならない。秘密交通権が問題となる刑事分野では、より強くこの要請が働くだろう。
日弁連が2016年2月に公表した「弁護士と依頼者の通信秘密保護制度に関する最終報告」では、一般論として通信の秘密の保障が国際的なものであること(そして日本ではそれが立ち後れていること)が報告され、秘密を保障すべき理由として、「弁護士に対する相談内容の秘密を守ることで、依頼者が安心して弁護士に相談することを制度的に保障するものである。なぜ弁護士に相談することを制度的に保障する必要があるか、その制度趣旨又は効果として、二つの説明がなされている。第1は、防御権の観点である(Rights Based Rationale)。依頼者の正当な権利や利益を守るためには弁護士の援助が必要である。第2は・・」というように述べられている。

弁護士へ相談したということそのものや、特定の弁護士への相談事実が、それ自体、色眼鏡で見られかねない場合もある、ということを想起するまでもなく、前記一般論からして、相談事実そのものが通信の秘密として保護されなければならないことは当然であろう。まさか、接見申込みがあったことを、依頼者に無断でぺらぺらと話してしまう弁護士がいるとは・・と、暗澹ともしたのである。

こういう場合の唯一の正しい対応は、「そのような申込みがあったかどうかも含めて、一切、お答え出来ません」である。そうでなければ、安心して弁護士に相談を申し込む、ということすら出来ず、弁護士への社会的信頼は大きく損なわれるだろう。

(弁護士 金岡)