本欄本年6月3日「裁判官は具体的な保釈許可理由を書くべき」において、要旨、検察官による不服申立が予想される保釈許可決定に際しては、許可決定そのものか、少なくともその後の原裁判官意見には、詳しい理由を付すべきであると論じた。
そうでなければ折角の判断も、空想上の理由を前提に批判され、判例法理による合理的裁量論からも守られなくなるからだと。

この時、取り上げた案件は、5月30日に保釈請求⇒6月1日に保釈許可⇒6月4日に抗告認容(その後に特別抗告棄却)という流れを辿ったが(当初請求審に3日を要したが、これは弁護人と検察官との反論の応酬に時間を要したもので、必要やむを得ない)、その後、6月20日の進行協議を経て再度、保釈を請求した。
⇒ 6月23日に保釈許可、同日抗告棄却。
今回の4日は流石にかかりすぎ(6月21日に補充意見を出しただけで、その後は判断待ち)と訝しんでいたが、蓋を開けると許可決定にはたっぷりA4二枚半の許可理由が書かれており、その起案に慎重を重ねたのだろうとは推察された。
経過から分かるように、同一裁判官が受訴裁判所である。ものの10日前には最高裁判所が保釈不許可にお墨付きを与えている。その中で、事情変更を拾いつつ、理由を付さなかった前回の反省を活かし、上に迎合しない決定を書き込んだ姿勢はやはり賛辞を送るべきだろう。

検察官の抗告理由も、勿論、原決定理由を踏まえた批判の論が展開されていた。往々にして原審検察官意見と瓜二つの抗告理由しか述べられない中で、原決定理由を踏まえた抗告理由は珍しい(というより原決定に具体的理由が付されないため,原決定理由を踏まえた批判を論述しようが無いというのが正しいが)。こうやって噛み合った議論をすれば、抗告審も、わけのわからない空想による自作自演の誤判に陥ること無く、事後審に徹することが出来るというものである。
ある意味、理想的な現代的保釈裁判であったと言えよう。

(弁護士 金岡)