こんな報道があるよと教えられたもの。
報道の見出しは「元警察官、寝坊で裁判出廷せず」(本年4月17日付け)。
記事内容によれば、追起訴事件の冒頭陳述が予定されている期日に被告人が現れず、弁護人が連絡をとったところ「遅れるそうです。やむを得ない理由ではなかったです」(弁護人・談)であり、15分~20分かかるというが、15分待っても来なかったので、そのまま開廷し、冒頭陳述を実施したという(報道では、冒頭陳述に対する弁護人の意見が述べられたというから、「冒頭手続」が行われただけで「冒頭陳述」までは進まなかったのではないか、という疑念はある)。

見出しからしても、被告人に批判的な記事に相違ない。
寝坊して裁判に来ないなんて。
まして、元警察官ともあろうものが。
と、そういう方向性であろう。

しかし、弁護士目線では、これ違法じゃないの?という方にしか目が行かない。
本件は刑訴法286条が適用される事案であり、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。追起訴事件に詐欺罪が含まれていたというから、裁量的に出頭を免除できる場合に当たらないし、そもそも出頭を免除する許可が発令されたわけでもない。しからば、どうしたって開廷自体が違法である。

裁判所は刑訴法286条をどのように考えて、開廷に踏み切ったのだろうか。裁判例上も、出頭に手を尽くしてそれでもどうしても出頭してこない場合に権利保護を損なわない場合であることを確認して漸く不出頭のまま開廷したことを是としたものはあるが(それでも免訴判決という通常不利益にならないものですら、見解が分かれているほどである)、今回そのような手が尽くされてはいない。
勿論、弁護人が良いと言っているから良い、ということにはならない。弁護人が良いと言ったということ自体、理解不能であるが(記事中では、弁護人の意向を確認した上で開廷したとあるから、反対はしなかったのだろう)、ともかくそれは言い訳にならない。

法曹三者よってたかって、刑訴法違反の開廷を敢行し(冒頭陳述以降は自重したとしてもダメなものはダメである)、被告人の手続保障を侵害した酷い出来事だと思うが、そういう方向性の報道になっていないあたり、法律より面白ネタの方が重宝されるのだろうな、と思う。マスコミも、面白ネタとして報道する前に法的当否を確認するくらいしたらどうなのか、と思うが、勿論、諸悪の根源はやらかした法曹三者の方である。

(弁護士 金岡)