前回、非整理手続では類型的な証拠であろうと主張関連的な証拠であろうと、当然に開示請求していく義務はないと言い切る、とんでもない弁護人のことを報告した。
そこで検察官の不正にも言及したので、今回は経過を追いつつ事の次第を説明したい。
原審記録を読んでいて、まず目を奪われたのは、原審弁護人が整理手続を請求したことに対する検察官の反対意見である。以下、転記する。
「なお、公判前整理手続に付されない場合、弁護人から証拠開示の要望があれば、その都度幅広に任意開示に応じる予定であるが、仮に公判前整理手続に付された場合、いわゆる類型証拠や主張関連証拠開示に該当する証拠以外の証拠を任意に開示することは一切予定していない」(石井竣検察官)
なんだこれ。
なんだこれ、としか言いようがないのが、本当になんなのだろうか。
随分と弁護人(と刑事裁判)を侮っているなぁと言うのが感想である。
そして・・(整理手続は却下され)弁護人が主要証人X(共犯者として逮捕勾留された)の「供述録取書すべて」の開示を求めて(ここにも原審弁護人の疎さが表れている。「供述録取書等」と書くべきところであり、「供述録取書」ではダメなのだ)、Xの供述録取書十数通が開示されたのだが・・
①一番日付の若いXの員面調書の初っぱなに「先日の取り調べで嘘をついていました」とある。で、その「先日の嘘」の書かれた調書は開示されているかというと、開示されていない。これは調書を時系列に並べるという基本作業から容易に判明する。
②また、Xは少なくとも3回は逮捕勾留されているようだが、そうすると都合6通の弁録が揃うはず(勾留質問調書も加えれば9通)であるのに、全部で1通しか開示されていない(それも被告人とは直接関係ない方の被疑事件の弁録だけが何故か開示されている)。少なくとも8通は足りないと気づくことが容易である。
③更に、Xの第1事件第2事件を通算して、開示された検面調書は1通だけ。あり得なくはないが、40日で検察官調べ1回は、かなり不自然である(先ほど「供述録取書等」と書くべきだと指摘したのは、「等」を落とさなければ仮に調書がなくとも録録が開示請求されたことになったはずだからである。)。
ちなみに、後日談になるが、私が控訴審でX側の確定記録調査を行った結果、案の定、第1事件第2事件の未開示の検面調書が複数存在することが判明している。
しかし原審弁護人はそれ以上に開示を求めることもなく、尋問に突き進んだ。
任意開示なら幅広に応じるよと気前の良さそうなことを宣った検察官が、実は最初期の嘘の書かれた調書を開示しない、弁録を開示しない、などという明らかな背信行為をやっている(録音録画媒体の不開示も卑怯だとは思うが、原審弁護人が「供述録取書」に限定した証拠開示請求をしてしまい、録音録画媒体を明示的に求めていないので、卑怯止まりかもしれない)。
なので、検察官の背信行為の方が相対的に悪い(それを見破れない弁護士にも大きな非があるが根本的な原因は検察側にある)、と思ってはいたのだが、前回報告のとおり原審弁護人は、整理手続が却下された以上は証拠開示を求めていく権利がなく、そうする義務がないと御主張なので(ただし、整理手続却下後に「供述録取書すべて」の開示請求をしているから、言動に一貫性がない)、そうすると、どっちもどっちである。
この背信的検察官と、最善弁護義務を怠る弁護人が組み合わさったのだから、哀れなのは被告人であり、この事案で、憲法31条が求める手続保障が実現していないことは確かである。
控訴審弁護人として振り返ってみたとき、これはひどいと思う原審手続経過はままあるが、その中でも本件の出来の悪さは出色であり、嗤うしかなかった。
ちなみに原審弁護人の事務所HPには「刑事事件に強い弁護士」と標榜されており、数万件の相談件数を誇り、数千件もの「解決実績」があると書かれている。
「解決実績」という意味の分からない記載があるところに(良くも悪くも解決しない刑事事件ってあるんだろうか?)不安しかないが、それはともかく無罪件数は書かれていない。別に無罪件数だけが偉いわけでもないが、「刑事事件に強い」を標榜するなら無罪件数は書きたいはずだから、まあお察しである。そしてそれにはそれだけ理由がある、ということが、この事例を通しても理解できる。
ともあれ、整理手続が却下されただけで証拠開示をやめてしまうような弁護士は存在しない方が良く、誇大広告も良いところだと思う。
(2/2・完)
(弁護士 金岡)