相変わらず、裁判所が珍妙な理屈を繰り出してSBMに抵抗する、最早、滑稽譚のような法廷を報告する。なお、本体の事件は、先日話題にした鑑定留置理由開示案件であり、理由開示公判の模様は別途、お届けする予定だ。
さて、この理由開示公判では、腰縄手錠申入れとSBM申入れを行った。
腰縄手錠問題については、親族が傍聴するためだとは思うが要望が容れられ、傍聴人出し入れ方式により実現した(平手健太郎裁判官。なお同裁判官が昨年、腰縄手錠申入れを拒否したことについては、本欄2024年8月27日で報告済みである。)。
親族の目だけが全てではなく、親族がいる・いないで晒し者にする・しないを分ける合理的理由はないと思うが、本題から逸れるので、さておく。
本題。SBMの方である(なお、以下の再現は、期日調書が未着なので記憶と記録に依拠している)。
被疑者(鑑定留置なので拘置所押送)を弁護人の隣に座らせるよう求めたが、前のベンチに座れとの命令が出て、異議申立も棄却。
そこで、「弁護人が適時に法廷内を移動し、被疑者と話す等することに問題はないか」と確認すると「問題ない」とのこと。
これが確認できたので、相弁護人に、即座に被疑者の着席位置の斜め前、傍聴席側に移動してもらったところ、裁判所は「必要な時だけ移動して下さい」という。
「適時、助言するためには何時だって必要なんですよ」「いま、弁護人が被疑者から話しかけやすい場所にいることが不要だと裁判所が決め付けるのはおかしいでしょう」と教え諭し、相弁護人が被疑者の着席位置の斜め前に立つと、今度は「もっと下がれ」という。理由を問うに「傍聴席が見えない」という。
被告人質問時は、押送職員はお白砂席のベンチに座るのだから、弁護人がそこら辺にいても何の問題もないだろうに、裁判所はその位置を占めることを認めようとしない(低次元の意趣返しであろう)。かくして相弁護人は、被疑者の着席位置の斜め前にしゃがんで、法廷を務めることとなった(椅子は与えられなかった)。
平手裁判官は、よほど、この事態を腹に据えかねたようで、相弁護人に対し何度も、弁護人席に戻るように促した。「やめませんか」とか「折角、出廷しているのだから、弁護人席に座られたらどうですか」等と、繰り返し翻意を促したのは、実に笑えた。
「相弁護人は、被疑者と適時、意思疎通できるようにすることで、弁護人としての役割を完全に果たしているのだから、お気遣いは無用に願います」と皮肉を交えて切り返し、議事進行を促したのは勿論である。
事後、被疑者に感想を尋ねると、「弁護人が視界に入っていると言うだけで、気持ちが全然違う」と、好評であった。
これは重要な感想だと思う。
弁護人からは、せいぜい「話しかけやすいかどうか」という視点しか持てなかった。
今回、「安心感」という、新しい気付きを得たからである。
世は、被疑者から話しかけやすく、安心感を与える弁護人を嘉するだろうか。
それとも、「折角出廷したのだから席に座ればどうか」という裁判官の配慮に感動するだろうか。
私が決めることではないが、おそらく、後者のような評価が与えられることはあるまい。残念ながら、平手裁判官の上記振る舞いは、滑稽にしか映らなかった。
(弁護士 金岡)