【1】
先日「しゃがむ弁護人」と題して、鑑定留置理由開示公判の冒頭の実情を報告した。未だに、弁護人を被疑者/被告人の真後ろに配置し、円滑な意思疎通を妨げることに問題意識を持てない残念な裁判官がいる、という話である。

で、折角なので鑑定留置理由開示の実情も報告しておこうと思う。
今回の争点は、留置期間が4ヶ月と相当長期に定められたことに対し、その開示を求めるものであり、原決定から約1ヶ月が経過していたことも踏まえ、現在における「残り3ヶ月」の理由も開示を求めていた。
本欄本年8月1日付けの続きと捉えて頂ければ良い。

【2】
まず、本題に入る前に、本欄本年8月1日付けで問題とした、「五日以上」制限に引っかかるのではないかという問題について質疑し、裁判所は、「五日以上」制限には反しているが「やむを得ない事情」がある、という説明をした。
月曜に請求書を提出して、火曜開催では「五日以上」制限に反するという計算方法が正しいことが確認できたのは何よりである。

実際の遣り取りは次の通りである(基本的に調書書き起こし)。
J:5日以上経っているのは、そこはそうだと思います。
B:昨日まで差し支えと伺ったんですが、具体的にどういう差支えですか。
J:そこについては回答を差し控えたいと思います。
B:差し控える権利はありませんね。法律上やむを得ない事情があるかどうかについて、具体的に説明していただかなければ、それが本当かどうかも判断ができませんので、具体的に説明してください。
J:所謂夏季休廷です 。

前回記事の通り、意思疎通機能不全裁判官である森島聡裁判官は、頑なに、「五日以上」制限違反の理由を回答せず、異議申立も棄却した(なお、最高裁は、期日開催後に、訴えの利益がないとして特別抗告を棄却)。
しかし蓋を開けてみれば、公判廷で回答可能な、それも割とまともな差し支え理由であり(1日遅れではあるが、原決定裁判官が出てくる方がましである)、何故これを森島裁判官が頑なに回答拒否したのか、全く理解に苦しむ。

そこで、平手裁判官に対し、森島裁判官は何故、「五日以上」制限違反について期日指定に先立つ説明を求められながら、これを無視して期日指定を強行したのかを問うた。

J:その点については回答する立場にはありません。
B:つまり森島裁判官がやったことだから答えられないということですか。
J:私が指定したわけではないです。

森島裁判官が、平手裁判官の意向を確認せずに期日指定を強行したのか、意向を確認してから期日指定したのかは知らないが、見苦しい言い訳ではある。
今後、開示公判を担当するだろう裁判官以外がしゃしゃり出てきた場合は、「取りあえず、あんたの出る幕ではない」という対応をしなければ、「あいつの勝手にやったことだから」という言い訳を隠れ蓑にされることだろう。

【3】
さて、いよいよ鑑定留置理由開示の中身についてである。

前記の通り、専ら鑑定留置期間の算定に絞り、かつ、公判当日の残留置期間を維持する理由についても開示を求めたところに特徴がある。

J:本件事案の性質、内容、被疑者の病歴や犯行前後の言動等を考慮し、相当な期間として鑑定期間を定めたものである。(求釈明にかかる問診に要する期間や、投薬テストの要否、行動観察の要否やこれらに要する期間といった個別項目の積算過程)について、どのように鑑定作業を進めるかについては、鑑定医の専門的裁量判断に委ねられていると考えており、個別作業内容とそれに必要な期間を鑑定医に確認したものではない。
B:鑑定医の方が4ヶ月必要と仰ったんですか、それとも鑑定医は具体的な数字は言っていないが裁判所の方で4ヶ月と決められたんですか。
J:その点については回答しません。
B:(再度、尋ねる)
J:鑑定医の意向を確認した上で、裁判所として先ほど述べた検討の上で期日を定めました。
B:鑑定医は4ヶ月どうしてもかかると言いましたか。
J:鑑定医がどのように言ったかについては回答を差し控えます。
B:(再度尋ねる)
J:回答しません。
B:鑑定医が4ヶ月必要と言いましたか、それともそこは具体的な数字は出ていないんですか、どちらですか。
J:それについては回答しません。
B:それを回答しなければ、4か月が必要最小限の適法なものかということを計りようがないと思いませんか。
J:鑑定医の意向を踏まえた上で、裁判所が必要な期間、相当な期間を定めたものです。
B:では鑑定医は4ヶ月かかるとは言っていないんですね。
J:その点についても特に回答はしていません。
(以下、押し問答になる)
B:そこを回答しなければ、被疑者さんがなんで自分が4ヶ月もいなきゃいけないのか、医者の意見なのか裁判所の意見なのかどっちかということが分からんわけです。それで鑑定留置理由を開示したことにはならないでしょ。
J:鑑定留置期限を決めたのは裁判官であります。
B:では医者が4ヶ月必要と言ったという明確なことは仰らないという理解でいいですね。
J:そうですね。

B:(次の求釈明事項ですが)医者は問診にどれくらいの時間がかかると裁判所は見込まれて、裁判所の判断として4ヶ月とされたんでしょうか。
J:それについては先ほど回答したとおりです。鑑定医の作業については、専門的裁量判断に委ねおられておりますので、個別の内容と期間を確認したわけではない。
B;鑑定医から具体的にどんな作業をするか聞きもせずに4か月と決めたんですか。
J:鑑定医が、どのような内容の疎明資料があったかについてはお答えは差し控えます。
B:鑑定医は、例えば問診にどのくらいかかるといった具体的な見積もりをしましたか、してませんか。
J:それについては回答はしません。
B:数字は言わなくてもいいですけど、鑑定医から問診に必要な回数や期間を確認することもしていないんですか。
J:回答は差し控えます。
B:していないんですか。
J:回答しないという回答です。
B:裁判所は鑑定医の専門裁量を尊重したと仰るわけですが、鑑定医がどういうことをして4か月かかるかということについて、鑑定医が鑑定医なりに専門性を発揮したかどうかはチェックされたんでしょうね。それとも完全に追認しただけなんですか。
J:鑑定医の専門的な裁量判断の基に行われるというふうに判断しています。具体的なところについては答えません。
B:専門的な裁量権をきちっと行使しているかを監視監督するのは裁判所の仕事ですよね。鑑定医が4か月と言ったら、はい4か月という安い仕事はしてないと思うので聞いているんですが、鑑定医が専門家としてどういう根拠で4か月くらいかかると出してきたのか、裁判所としてきちっと監督されましたか。
J:鑑定人の意向を踏まえて本件事案の性質内容、従前の病歴、犯行時の言動を蹄まえて4か月。
B:4か月もかかるのかということについて、なんで4か月だって話をしたら、結局どんな作業をするかは鑑定人の専門裁量だと仰るので、裁判所は鑑定人の言いっぱなしではなくて専門家としてどういうことをやって4か月くらいになるのかというのを鑑定医に確認しましたかと聞いているんです。
J:鑑定医とのやり取りについては回答を差し控えます。
B:確認したかどうかも言えないんですか。
J:そうですね。
B:確認していないんですか。確認していないから言えないんですよね。
J:回答は差し控えます。
B:言えないということですね。

B:鑑定医は鑑定作業の後の文章化にどれくらい時間がかかるかということについては、裁判所の方で確認されましたか。
J:個別の作業内容と期間については、確認していないということになります。
B:本件の場合(文章化に)どれくらいかかるかっていうことを本当に確認していないんですか。
J:そこは具体的には確認はしていません。

【4】
長くなってきたので、ここらで前半としたい。

誰がどう見ても、「暖簾」か「糠」の類いであり、腕で押そうと釘を打ち込もうと、ずぶずぶめり込み手応えを欠く手続ではあろう。

4ヶ月必要と判断した具体的過程が全く明らかにされないというのも、恐ろしい話である。例えば民事の準備書面提出に「半年必要」といえば、その具体的根拠を問われるだろう。ましてや、必要最小限度を旨とする鑑定留置期間の決定において、その期間決定の過程を具体的に説明する必要がないと強弁する裁判官の存在は、令状主義の精神に著しく反し、害悪でしかない。
常識人が見れば「裁判所はこんなところなのか」と、驚くだろう。

しかしそれでも、全くやる意味がないというわけでもない。
最後の方に注目すると、鑑定書の文章化に必要な期間を「具体的には確認はしていません」と、漸く、本音を吐いた。そこまで、必死にごまかそうと「回答しない」を繰り返していたが、結局、本体作業にどれくらい、その文章化にどれくらいといった、「何にどれくらいが必要だから4ヶ月」などという算出過程ではないということである。
必要最小限度の留置期間になるよう監視すべき立場にありながら、何にどれくらいが必要だということに関心を持とうとしない裁判官。
話にもならない。

(2/2・完に続く)

(弁護士 金岡)