ようやく、「鑑定留置理由開示の実情」の続きを書く。
前回同様、手続調書を書き起こしながら進める。
【1】
前回は、4ヶ月と3日という相当長期の鑑定留置期間を定めた算定根拠について、裁判所がまともな説明を拒んだこと、鑑定作業完了から文章化に要する時間すら具体的に算定していないことが判明した。それでも4ヶ月と3日が必要やむを得ない最少限度だと言えるのかは、甚だ疑問、というと控えめに過ぎよう。
さて、鑑定留置から約1か月が経過し、鑑定医の動きとして見えることは、留置開始から約20日目に一度、拘置所に面会に来た(但し依頼者は会うことを拒否)というだけである。その間、何をしていたのか。例えば本件以外の用務に忙殺されて何もしていないということはないだろうか。必要やむを得ない最少限度の身体拘束に止まることを監視すべき弁護人としては当然の着眼点である。
J:鑑定嘱託の主体は検察宜であり、裁判所ではない。したがって、鑑定留置期間内の具体的な作業状況について、裁判所は確認する立場にない。また、(鑑定医が鑑定留置開始から約20日間、問診を試みることすらなかったという事情は)直ちに鑑定人が鑑定作業を行っていないことを窺わせるものとはいえないと考える。
B:約20日間、鑑定人はひょっとして何もせずに怠けていたのではないかと弁護人は疑義を抱いている。その点について裁判所この約20日も含めてどうしても必要だと認定されたわけですから、この約20日がさぞかし実りのある鑑定期間だったんだろうなということは確認していただけないんですかね。
J:先ほど述べたとおりです。
B:ひょっとすると鑑定医は何もしていないかもしれないということを裁判所は否定しないんですね。
J:鑑定人が鑑定作業を行っていないことを窺わせるものではないと思います。
B:この約20日間、本当に鑑定医は何か真面目に鑑定作業をしていたんですか、それ確認しなきゃ、4ヶ月と3日が本当に必要だって言えなくなりますよね。
J:前提が異なると思います。
J:確認はしていませんけども、鑑定人が鑑定作業を行っていないことを窺わせるものではないと考えます。
B:やってたことを窺わせる事情は何かありましたか。レトリックはやめていただいて。じゃあ逆にこの約20日間何か鑑定作業をしたことを窺わせる事情はありましたか。
J:裁判所は確認する立場にありませんので、確認していません。
どうだろうか。糠か暖簾と会話しているようなものだったというのが偽らざるところである。約20日間、なにかしらの鑑定作業に従事していたかどうかは「事実」なので確認すれば足りることである(事前に確認するよう求釈明事項に盛り込んでいた)。なのに裁判所は、「怠けていたと窺わせる事情はない」などと、事実を直視しようとしない。じゃあ逆にちゃんとやっていたことを窺わせる事情はあるのかと問うと「確認する立場にない」と逃げる。
いや、令状出して収容を命じたのは、裁判所ですよね?それを監視するのが令状主義じゃないんですかと言いたい(というより言った)。
相弁護人が、「令状自動発券機」と揶揄する起案を出してきたが、表現の善し悪しは別として、言わんとするところは正しい。上記の理由開示公判を見る限り、令状主義の精神は実に安っぽく、「過剰拘禁になっていようと裁判所は感知しません」と言っていれば済むのだから、大川原化工機事件のような悲劇も宜なるかなである。
【2】
さて本件では、当初、相当の問診期間を見込んで4ヶ月と3日とされたの「かも」しれないが、依頼者が問診を拒否することでその期間分の短縮が見込めるものであった。
J:もっとも、一般論として、被疑者に対する問診が不可能であったとしてもも直ちに鑑定が不可能となるわけではなく、また当然に鑑定期間が大幅に短緒されるものでもない。
B:医者に予定が変わってきて期間変わりませんかっていうことを確認する必要ないですか。今裁判官は、レトリック的に、一般論として間診ができないからといって鑑定期間の大幅短縮はないよと仰いましたけど、逆にいうと、それなりに短縮され得るということは、一般論として認めざるを得ないと。医者に対して、問診ができないという現状を踏まえて、必要期間に変動ないですかと、確認しないと、本当に今の鑑定留置期間が必要最小限度だっていう話が出てこないんじゃないですか。
J:先ほど回答したとおりですが、裁判所として残りの鑑定作業が何になって、それにどれくらい期間がかかるか、それを逐次確認する立場にはない。
B:今日現在、なお、当初鑑定留置期間がどうしても必要なんだという確信をお持ちなんですか。
J:自分は判断する立場にはないということになります。
お馴染み、糠か暖簾との対話が続く。
大幅に至らない程度の短縮がありうるというのに、鑑定医にそれを確認することをせず、そうする立場にもない裁判所。
令状主義の看板(そもそもそのような看板が掲げられているとも思わないが、あるとすれば)をそろそろ下ろすときであろう。
【3】
最後に鑑定医情報の開示。
J:鑑定留置理由の開示において開示すべき事項ではなく、鑑定人に開示可否を確認するまでもなく、回答しない。鑑定嘱託の主体が検察官である以上、それを飛び越えて裁判所が開示するのは相当ではない。
捜査段階における鑑定留置事案を経験すれば分かることだが、鑑定医情報を知ることはなかなかに困難である。裁判員裁判を契機に、起訴前鑑定に弁護人を関与させるべき、という議論が生じたものの、検察庁は「検察を通せ」の一点張りであり、そのような「筒抜け」状態、及び、担当医と直接議論できないような無責任な状態を良しとしない以上、弁護人関与は事実上不可能な事態が続いている。
鑑定留置理由開示が、不当な身体拘束を争う手続的保障の一翼を担うのであれば、鑑定医の中立性や専門性を確認すべく鑑定医情報が開示されるのは当然だと考えるのだが(なにか間違って、精神鑑定を内科医に嘱託してしまっているようなことだって、理論上は考え得るのだ)、これを開示しないのが当然と考える裁判所とは、正しく話にならない。
なお、問診に応じるなら、依頼者に必ず、鑑定医情報を確認させるべきだろう。
問診に応じない方針でも、鑑定医情報を確認した上で断るという手順が望ましい。
今後の弁護実務に役立てていただきたい。
(弁護士 金岡)