被疑者が鑑定留置になり、拘置所ではなく医療機関に留置された場合の日常生活についてである。(こと精神鑑定の場合)医療機関に鑑定留置されることは、体感的にはさほど多くなく、拘置所での問診等で十分に精神鑑定が可能なことが多いと思われるが、事案の重大性や、近時は鑑定医に対しても原則黙秘権を行使すべきだという問題意識の高まりもあり、問診に代えて行動観察を行う、といった観点から医療機関への鑑定留置も増えていくのかもしれない。
以下は、そのような一例からの報告である。
おそらく担当医の個性に負うところも多いので、各自が問題意識を持って対峙する必要があると思われる。
【1】面会
面会は医療機関の規則に従う。
拘置所はアクリル板越し、平日9時5時だが、今回の医療機関は平日以外も可能、17時30分まで可能、アクリル板もなければ、一緒に飲食も出来る。読みたい新聞を届けることも、何十冊という続き物の本を一挙に届けることも自由である。
拘置所より遥かに好待遇である。
【2】電話
精神保険相談を通じて、措置入院患者であって(さえ)も、弁護士と電話できることは知れている。依頼を受ければ、依頼者からの電話としても自由自在である。
しかし今回の医療機関は、被疑者に電話を認めない。
その理由を聞くと「担当検察官が、できるだけ勾留と同じようにしてほしい」と依頼してきたからだそうだ。
医療上の必要なく電話制限することは違法ではなかろうか?事案によっては法的措置も考えられよう。
【3】鑑定留置記録
鑑定留置は医療ではなく精神鑑定業務である。従って、鑑定留置中の医療機関におけるあれこれの記録はカルテ開示で取るのか、それ以外なのか?
担当医はカルテ開示でOKとのことであった。
かの崎浜医師事件最高裁決定千葉補足意見が「医師の業務の中で基本的な医行為とそれ以外の医師の業務とは,必ずしも截然と分けられるものではない」として、精神鑑定業務に医師法の適用を認める根拠としたことに照らせば、精神鑑定業務記録も基本的には医師法の枠組みで処理されることになるのだろうか?
だとすれば、精神鑑定書すら、診断書に準じて開示請求可能になるのか?
この辺、今後の検討課題である。
そういえば、鑑別所の精神鑑別記録についても、医師法の枠組みで開示請求しているものがあった。此方は拒否されたので不服審査請求中である。
【4】問診立会
前記の通り、拘置所での問診に黙秘権を行使して医療機関への鑑定留置となり、「そこで漸く、担当医の名前が分かり」担当医と協議して、問診に応じる方針に転換するとした場合に、問診に弁護人も同席できるか。
これを拒否できる理由はなく、(担当医によれば検察官の判断を仰いで)問診にも立ち会えている。
理屈上は拘置所での問診にも立ち会える筈だが(私は拘置所での参考人聴取に立ち会った経験がある)、試みた弁護士はいるだろうか。
上記にわざわざ「そこで漸く、担当医の名前が分かり」としたのは、いつぞやも書いたことだが、起訴前の鑑定留置手続における担当医の名前を知る方法が、ない、という問題は大きい(勾留理由開示では拒否され、担当検察官が拒否すれば、あとは依頼者情報任せになるが、問診を拒否すると、その手掛かりも失われ、せいぜい、拒否された訪問客の名前を23条照会するくらいしかなくなる)。
検察官に対して信頼関係がなくとも、担当医と協調し得ることは有り得るのであり、弁護人に担当医を知る手続的保障を与えるべきだと思う。本件の場合、担当医の名前が分からないまま推移したことで、たっぷり2か月は無駄になった。担当医と最初から協議できていれば、医療機関への鑑定留置などと言うまだるっこしいことをせずとも、拘置所での問診に弁護人立会付きで応じたかもしれないのだ。
(弁護士 金岡)