思わせぶりな件名であるが、被疑者の弁護人として立ち会ったわけでもなければ、被害者代理人その他の参考人代理人として立ち会ったわけでもない。
勾留中の被疑者に対する、措置通報に伴う精福法27条の措置診察が行われることになり、それが名古屋地検(319号室と記憶)にて実施されることとなり、立ち会ったものである。

精福法27条の診察には、配偶者や、現に被通報者の保護の任に当たっている者の立会権がある。私は、配偶者代理人として、或いは現に被疑者の保護の任に当たっている弁護人として立会を求めたが(厚労省の措置入院の運用に関するガイドラインによれば刑事施設の長ですら「保護の任に当たっている」扱いである)、名古屋市の発行した書類では、配偶者代理人として立ち会うことになった模様である。
被疑者は当時、代用刑事施設(つまり警察)で勾留中であったが、私が立ち会うこととなった瞬間、診察場所が名古屋地検に変更になった(そのため手配済みの医師が来られなくなったが、それでも構わず変更が強行された)。
先日の名古屋拘置所と同じく市井の医師の立入は認めても弁護士の立入は認めないという意地のようなものなのだろうか(前掲ガイドラインでは、移動の負担が被通報者に与える負荷を慮って「できるだけ搬送が少なくてすむよう」とあるのだが、お構いなしである)。
かくして~二重三重に不合理な判断が行われた結果として~名古屋地検の取調室における、私の立会が実現したわけである。

その模様である。
普段の取調官の位置に担当医が座り、反対側に被通報者が着席する。
被通報者の後ろには押送の警察官が3名。
被通報者からみて左斜め前に私。右斜め前(私の正面)には検察事務官。
・・いや、警察官に検察事務官が何人もいたら黙秘するしかないでしょ?ということで、事件に言及するなら、その時だけは捜査関係者は席を外すよう求めたが、検察庁はこれを拒否した。そのため、担当医が事件について質問を開始した時点で、被通報者には黙秘権を行使するよう助言、被通報者はその助言に則って行動した(診察妨害罪~精福法55条は成立しない筈)。
措置入院判定のためとはいえ、捜査関係者がいるところでの問診はやはり黙秘権との関係性が問題になる。こういうところでこういうことが起きている、ということは、初めて知り、良い経験をしたと思う。

余談その1。
私の右斜め前に被通報者が座っていた関係で、彼が腰縄と手錠で椅子にくくりつけられている状況がよく見えた。
取調べ録音録画では、巧妙にも、下半身が机で隠れるように撮影され、被疑者が椅子にくくりつけられている様は分からないようになっている。
しかし、目の前で人が、椅子にくくりつけられている様を見なければいけないのは、本当に嫌な体験だった。
これを見た人であれば、椅子にくくりつけられて任意の供述もへったくれもないと思うのではないかと思うと、現在全国的に設計されている取調べ録音録画の撮影角度には、嫌らしい作為が施されると気付かされた。

余談その2。
この事件は、起訴前本鑑定が実施されて、通報時点では既に起訴前本鑑定は完成していたが、当然、弁護人には開示されていない。
しかし、措置診察の担当医は、検察庁から写しの提供を受けていた(厳密には、名古屋市の担当者が提供を受けて、これを担当医に交付していた)。
不利益処分を受け得る被通報者本人と、その守り手である弁護士だけが、鑑定書を見られないという武器非対等の不合理さは、なんとも言い尽くせぬものがある。

(弁護士 金岡)